小説H

□三十万記念
1ページ/1ページ

アレが好きになったのは出会ってちょっとするかしないかの辺り。
一目惚れに近いような近くないような。認識はあ、優しい人だなーっていう曖昧な感じ。
それでよく好きになったなって、私でもそう思う。本当に人間ってくだらない事でときめくみたいだ。
呆れるくらいアレの事しか考えられなくて、回りのー・・・といっても、エリザとかナターシャとかリヒちゃんとか湾ちゃんとかにばれるくらいあからさまで。
恥ずかしいけどなんだか嬉しい気持ちだったりもした。


け、ど。


アレの隣にはいつしか女の子が立つようになって。
あれ、もしかして、彼女?なんて分かりきった答えは出ているのにまさか、友達かなんかでしょって自分をごまかして。
すれ違うアレをじっと目で追っていればいやでも目に入ってくるその女の子とアレの姿に水ぶくれを無理やり引っぺがして砂利を擦り込むような酷い痛みが胸に陣取るようになる。
知らない女の子にアレと女の子の関係について聞いてみれば「ああ、一ヶ月くらい前から付き合ってるよ」って返事が返ってくる。
そこで、あー、そっかー、マジかー。って、やっと一息ついた。

胸の痛みも、ようやく認めたことでだんだん薄くなっていって、仕方ないよねって割り切る事にしたとき、
ふいに、なんとなく、フられもしないで終わってしまうこの恋が悔しくなった。
むかつくから、私があいつを好きじゃなくなったって事にしよう。そうすれば、私から恋愛感情がなくなったんだから、私は負けてない。勝ってる。そうだよ。
わけのわからない納得をして、その日から私はアレが好きではなくなった。嫌いでもなくなった。
けど、目が自然にあいつを追っているのはなんでか。ああきっとあれだよ。アレの背中に背後霊かなんかが付いていて、見えないけど私は感じ取っているんだ。

「お気の毒様。」

私は小さく小さく、そう呟いてみた。
私を好きになっていたら、まあ私はもう好きじゃないけど、付き合ってやらないことはなかったのに。
隣を一緒に歩いていたエリザと湾ちゃんが、不思議そうに私の顔を見て、私はなんでもないよと首をふる。
そんでもって、通り過ぎたアレの背中を後ろ目で見て、また一言呟いた。

「じゃあね。アルフレッド。」

あんたが私を好きになるときまで。








好きなくせに馬鹿みたい

意地張って嘘付いて意気地もないなんて馬鹿みたい!
(誰かが私にそう怒鳴った気がした)

――――
怒鳴ったのは私ですけど何か。
なーんちってね( ^ω^ )

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ