小説H

□幸村成り代わり
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「・・・っな、・・んな、旦那!」
「っ!」

がくん。
身体が揺さぶられ、私は慌てて目を開いた。
目の前には、私の顔を死にそうな顔で覗き込む佐助と、傍らから私の手を握り締めるお館様の顔が。
私は、ぽかんとして身体を起こした。

「佐助に、お館様・・・何ゆえこのようなところへ?」
「・・・ッ馬鹿!あんた、もう丸三日も起きなかったんだよ?!」
「肝を冷やした・・・大事ないか幸村?」
「は、はい、お館様・・・。」

ま、丸三日?!
佐助から告げられた数字に、私は目の前がくらくらした。ふと気付けば、目蓋が重く、不思議に思って目に触れてみれば、佐助が困ったように笑いながら「旦那ってば、泣いてたんだよ」って言った。
あ、そっか、私あの夢を見て・・・。
いや、アレは夢には思えない。きっとこの世界で、本当にあったことに違いない。
独眼竜、伊達政宗の幼少期、彼がまだ梵天丸を名乗っていたときの話だ。
自分とは全く違う苦しく寂しい幼少の思い出を見せ付けられ、私はいまだ呆ける脳内を整理するために額に手をやる。
はあ、とため息もつけば、佐助とお館様、辺りに散らばっていた女中たちが慌ててぬらした布やら薬やら粥やらを差し出してくるので、私は苦笑して口を開いた。

「大丈夫だよ。ちょっと、整理したいだけ。」
「でも旦那、まだ顔色も優れないぜ?」
「うーん、・・・でも大丈夫。ちょっと休めばなんとなかるよ。お館様、わざわざ某に気をかけて下さり、有難うございます。」
「む、大事無ければよいのだ。幸村、奥州への出発は先延ばしじゃ。ゆっくり休むといい。」
「ありがとうございます!」

ぽん、と大きな手のひらを私の頭の上に乗せて、わしゃらわしゃらと髪を掻き混ぜる優しい手つきに笑みを浮かべる。
そして、お館様が立ち上がり、部屋を後にするとともに、数人の女中も部屋を出た。

部屋に残ったのは佐助と私と5,6人の女中達。
私は、女中達に部屋を外してもらうように言った。

「旦那、どうかした?」
「・・・ん。なんでもないよ。」
「・・・・。」

女中が出てから、佐助が私にそう尋ね、私は膝にかかった布団のしわを直す。
なんでもないと呟くように言った私に、佐助が困ったような顔をして、また私の顔を覗き込むようにしながら言った。

「なんかあったんだね。旦那ってば、無駄に自尊心が高いから自分で言わないんだから。」
「・・・うん。」
「どうしたのさ、幸村様。」

私の隣に腰を下ろし、私の頭を少し撫でてくれる佐助に、なんだかなきたくなった。なんでかって、そんなのわかんないけど、じわりと目頭が熱くなって、私は思わずうつむく。
そして、おそるおそる、ゆっくり佐助の胸に額を当てて、彼の忍び装束を握り締めた。
合わせて、抱き締めてくれる彼に、なんだか申し訳ない気持ちと、ふやけるような安心感が溢れた。

「佐助。」
「なに?」
「ごめんね。ありがと。」
「・・・幸村様。」

それは、11年前に聞いたよ。

ぎゅうっと、抱き締める力を強くして、佐助は小さく笑った。









二度目の謝罪と二度目の感謝

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ようやく筆頭の過去に触れようキャンペーン終了( ^ω^ )
次からは佐助のターンです。

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