小説G

□モノノ怪連載
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「加世!」

室内に、女でも、私でも薬売りさんでもない声が響いた。
いまだ薬売りさんのひざに乗っていた女が飛び上がり、渋い顔をする。
きょとんとする薬売りさんの後ろで、私は誰か、声の主の顔を見た。

「あんたは・・・こんなときに何をやってるの?!」
「さ、さとさん!」

どうやら、先ほど口にしていた女性だったらしい。
さとさんの言葉に、女、加世は、おろおろしながら薬売りさんのひざから降りる。様あ見ろ、とか、思ったりしてないよ。ぜんぜん。
ぺこりと頭を下げる薬売りさんに続き、私も深々と頭を下げた。

「弥平から聞いてみれば、こんなところで油売っているなんて・・・」
「いつの間に・・・!」

げ、と、顔をゆがめる加世の視線の先には、ねずみのような顔の小さな男が、扉の向こうからこちらを見ていた。
おびえているような表情が癇に障らないでもないが、文句を言うときでもないので黙っておく。

「鼠捕りの薬をお勧めしていたところで・・・」

と、加世とさとの会話に、静かな薬売りさんの声が混じり、私は弥平という男から三人に視線を戻した。
薬売りさんの、物静かで冷静な声と態度が女性に売りなのに、さとさんは少しも動揺せずにきっぱりと薬売りさんと私に言い放つ。

「結構よ!加世、あんたは水でも汲んできなさい!」

加世に水汲みを言いつけるさとさん。と、くるりとこちらを振り返り、薬売りさんの顔を見た。
あ、と思ったときにはすでにとき遅し。
どうやら動揺していなかったのは薬売りさんを見ていなかったかららしい。
かあ、と頬を赤らめるさとさんは先ほどの勢いなぞかけらも見えなかった。
こんにゃろ。

と、私の胸中の嫉妬もここまで。
ざわり、と何かが胸の中でざわめき、とたんに全身の血が沸騰するような、肌が粟立つような、そんな感覚が私を襲う。
薬売りさんが、ふと顔を上げ、息を潜めるようにどこかをじっと見つめる。
そして急に立ち上がり、そのどこかをにらみつけたときには、その形相は何かあせっているような、何かを恐れているような。





「ぎ、」

ぎゃああああああああ!!!





そのとき、どこかで悲鳴が上がった。









化け猫/序の幕/大詰め


―――――――
久々にモノノ怪アニメ見たので。

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