小説G

□bsr連載
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「つるぎとともに、えちごのまちへ でてみてはどうでしょうか?」

天女のような美しい笑みを浮かべた謙信様が、手にお酌を持ちつつそう言った。
固まる私。目を細めるムニルさん。目を見開いて喜ぶ卯之助君。ほほを染めるかすが。

「え、で、でも、かすが、忙しいんじゃ・・・」
「忙しくなどない!謙信様のお言葉だ!早速行こう!今すぐ行こう!」
「うわーい城下町ー!」
「私は遠慮しておく。城から出ても意味はないからな。」
「え、え、え、」
「少し待っていろ、すぐに着替えてくるからな!」

なにこの騒ぎ!鶴の一声ならぬ謙信様の一声にて、ばたばたと動き回り始めたかすがと卯之助君。
かすがが屋根裏部屋に消えながら私たちに言い放った言葉は最後のほう聞こえなかった。急ぎすぎでしょ落ち着けよ。
うれしそうにぴょんぴょん跳ね回る卯之助君をほほえましそうに眺めながらお酒を飲む謙信様に、私は恐る恐る顔色を伺うような様子でじっと見つめた。
と、そんな私の視線に気づいたらしい謙信様が、私のほうに目をやって、にっこり、柔らかな笑みを浮かべる。
そこでようやく、私は大きく息を吸ってほほを緩ませた。

やったよ!お出かけだぜ!



―――――

「・・・かすがじゃ・・・ない・・・!」
「ばか者!私だ!」

着替えてくるといってからしばらくして、戻ってきたかすがの格好は見違えるものだった。
どこもかしこも際どいつややかな悩殺スタイルだったかすが。
けどいまじゃあ、きらきら輝く髪も黒く染まり、襟巻き、淡い青の着物、草履。
・・・・普通!普通の町娘になっちゃった!なにこの子普通!

「なんども普通普通言うな!」
「だって・・・かすが・・・えええええ・・・」
「なんだ!何か文句でもあるのか!」
「いや、かわいいから文句はない。けど・・・」
「あるんじゃないか!」

ぷんぷん怒るかすがには悪いけど、実は・・・その・・・かすがのおっぱいみれなくて残念だなーとか・・・いや思ってないです思ってない思ってない思ってないからムニルさんにらまないで!
ちくちく刺さるムニルさんの視線は無視する方向で、私は謙信様からお小遣いをもらっているかすがの背中を見つめる。
たのしんできなさいと笑う謙信様に、かすがはおなじみの花散らしでときめいてた。
楽しそうで・・・何よりです・・・。
お別れは終わったのか、かすがは私のそばまできて「行くぞ」と一声かけてくれる。
私は、かすがの顔を数瞬見つめてから、にっと口角を吊り上げてうなずいた。

「うん、いこっか!」
「・・・!」
「卯之助君、そろそろ行くってよー?」
「うん!わーい!」
「・・・。」
「? かすが、どうかした?」
「あ、う、いや、その・・・なんでもない!ばか者!」
「・・・。」

え、今私なんで怒られたの?
一文字に口を結んで、ずんずんと部屋から出て行くかすがの後姿を追いかけつつ、私は小首をかしげた。

謙信様が、「なかがよいですね」と嬉しそうにしているし、ムニルさんは「くだらん」とそっぽを向いている。
・・・まあよくわかんないけど、私がかすがに何かしちゃったわけじゃないんならいいや。










休みなんてない

(たくさん楽しもう!)

―――――――
かすがは初めての女の子の友達にときめいちゃったようです。
本当は手とかつなぎたいようです。
お前は乙女か!・・・乙女だな。乙女だ。

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