白雪姫+αと宇宙から来た巨人達

□第2話
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カタカタカタ…

「…ふぅ」
「お疲れ様、飲み物でもどう?」

ペンタゴンの地下、監視ステーションに響き渡る多数のPCコンソールを叩く無機質な音。
その内の一つから顔を上げると綺麗なお姉さんがココアの入ったマグカップを差し出してくれていた。

「あ、ありがとうございます。えっと…」
「マギーよ、マギー・マドセン」
「ありがとうMs.マドセン」
「マギーで良いわ。数少ない女性陣だもの、仲良くしましょう」
「そう?ありがとうマギー。私は…」
「天野星羅でしょ、セキュリティープログラム開発会社令嬢の。…それにしても凄いわね。後ろの視線、全部貴女によ?」

マギーに言われてくるりと後ろを振り向けば男性陣がこちらを見ていた。

「うわ、何アレ」

仕事集中してたから全然気付かなかったよ…

「貴女ネットじゃ有名人だもの、ハッカーやプログラマーの間じゃ『白雪姫』の名前を知らない人はモグリ扱いよ」
「…その呼び名、余り好きじゃないんだけどね」
「あらそう?良いじゃない、世界一の美女なんて呼ばれて」
「理由は三つ」

私はマギーの顔前に指を三本突き付けた。

「一つ、そんな事言ったら黒髪の色白美人は皆白雪姫。二つ、プログラマーとしての実力ではなく見た目だけで判断されてるみたいで嫌。そして三つ、私は毒リンゴ食べて植物状態で王子様のキスを待つお姫様なんて真っ平御免。大人しく殺られる位なら毒リンゴ持ってきた継母自力で倒して自分で好きな王子様を探す旅に出てやるわ」

そう言ってニヤリと意地の悪い笑みを浮かべて見せればマギーも同じ笑みを返してきた。

「なかなか良い性格してるじゃない」
「それ程でも。…あ、サクラお帰り。何か分かりそう?」

PCの画面にたった今まで軍事ネットのハッキング痕跡をスキャン調査していたサクラが映る。

「…残念ながら。現時点で分かっているのは相手がいとも簡単に国家最高レベルのセキュリティーを突破出来る凄腕の持ち主って事だけです。とりあえずもう一度アクセス許可が下りているファイルのギリギリまで行って解析してみます」
「お願いね」

ふっと画面からサクラの姿がいなくなったのを見届け、私も作業に戻ろうとしたその時だ。

「…星羅、これ聞いてみて」

マギーが私にヘッドホンを渡してきた。
それを耳に充てるとノイズに混じって金属音が聞こえてくる。

「またハッキングしてきてる…」
「これって…カタールの時と全く同じ信号よ…分析スキャン掛けてる?」

マギーが同じチームの男の人に質問した。

「やるべき?」
「ええ、やるべき」
「了解」

男の人がスキャンを開始してすぐ、PCの画面に『ウイルス検出』の文字が表示された。しかも送信元は…大統領専用機!?

「誰か!エアフォースワンでハッキングよ!!上級分析官呼んで!!」

すぐに上級分析官が駆け付け、ステーション内が一気に慌ただしくなる。

「ウイルスを送っていますね、今も転送中。ウイルスを送り込むと同時にシステム内にある膨大なデータを盗んでます」
「非常事態、ハッキングだ!大統領専用機の何者かが軍事ネットワークに侵入!!」
「ケーブルを切って。このままじゃデータを盗まれます!」
「全サーバーの回線を切れ、物理的にサーバーを隔離するんだ!」

他の人達が切断作業に入る中、私はサクラに指示を出した。

「サクラ、解析作業一旦中止!またハッキングよ。今サーバーを隔離する為にケーブル引っこ抜いてるから貴女はハッキング相手に私が開発したウイルスあるだけ送りつけてやんなさい!相手がウイルス対応に入れば少しはデータの流出を防ぐ時間稼ぎになるはずよ!!」
「はい!」
「星羅、貴女も手伝って!」
「りょーかい今行く!」

その頃エアフォースワンの中ではフレンジーがターミナルに自らを繋ぎ、軍事ネットワークから自分達が求める情報をダウンロードしていた。
後少しだ、後少しでオールスパークの行方が…上手く行けば、メガトロン様の行方も分かる。
ターミナルの画面に映るダウンロード状況のパーセント数字が75%を越えた時、画面に別のウィンドウが表示された。

『警告:貴方が行っている事は違法行為です。今すぐにファイルのダウンロードを中止して下さい。警告に従わなければ強制手段に出ます』

知った事か。辺境惑星のセキュリティー風情が何抜かす…俺に手出し出来る訳無い。
そう高をくくってダウンロード作業を続け、パーセント数字は90%を越えようとした次の瞬間…

!!??

フレンジーのメモリ内に凄まじい勢いでウイルスプログラム…しかも多種多様で流石のフレンジーでさえ処理しきれない量が一気に送り込まれて来た。
何だコレは、何だコレは!?何故俺はこんな辺境惑星のセキュリティーでダメージを受けている!?
混乱しながらもウイルスを消去しようとするフレンジーの意識内にウイルスとは別のプログラムがリンクしてきた…おそらくウイルスを送信してきたセキュリティーだろう。

「貴方が何者かは存じ上げませんが…忠告を聞かないからですよ?





…バーカ★

フレンジーは驚いた。そのセキュリティーは淡い桃色の髪に青い瞳をした人間の少女の姿をしていたからだ。
意思と姿を持ったプログラムだと?馬鹿な、それじゃまるで俺達と同じ…
そこでプツンと接続が切れる。監視ステーションにいる星羅達がサーバーからケーブルを抜く作業を終わらせたのだ。

クソッ!!

ダウンロードが中途半端に終わった悔しさからターミナルに頭をぶつけていたが警備の気配に気付き、自分を撃ってきた虫ケラを三匹程退治。急いでラジカセに姿を変えやり過ごした。

「(あのプログラムさえいなければ!データも完全に手に入れて虫ケラ如きに撃たれる事も無かったのに!!)」

その怒りでスパークを満たしながら。
空港に降りたエアフォースワンから脱出し、パトカーに擬態した同胞と合流。車載コンピューターを使い、軍事ネットワークで入手したデータからウィトウィッキー船長の名前を取り出し検索作業に入る。
あった、この視力補正装置だ。

「プレイボーイ217、こいつを探し出せ」
「分かった」

発車したパトカーの中でふと思い立ち、再び別項目の検索を始める。

「…何を調べるんだ、フレンジー?」
「俺の仕事を妨害した忌々しいセキュリティーの正体だよ」

意識がリンクしたあの一瞬、一瞬だが相手の情報の断片がアイスマン計画のファイルと一緒にダウンロードされたのだ。
天野…セキュリティー…
程なくして車載コンピューターの画面に何年か前の新聞記事が映った。
『天野財閥傘下のセキュリティープログラム開発会社令嬢が自立思考可能なプログラムを搭載したPCを開発』
『生きたPCを開発した天才美少女プログラマー・米国へ留学!』

記事の写真には黒く長い髪の美しい少女と彼女が大事そうに抱える淡いピンクのノートPC。
そしてそのデスクトップには先程フレンジーがネット内で遭遇した少女の姿が写っていた。

「サクラ…か、覚えといてやるよ」

絶対、このお返しはさせてもらうからな。
私達は彼らと遭遇していた。それとは気付かない内に。




 

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