RKRN×携帯獣

□初めまして、よろしくね
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女が空から降ってきた。
否、正確には背中に翼が生えて尻尾が燃えてる巨大なトカゲに乗った女がこの学園の校庭に降りてきた。
俺達六年生が校庭で遊んでいた一年生を避難させている間にその女は先生方によって学園長の下へと連れて行かれていた…が、先程まで彼女の傍らにいた巨大なトカゲはいつの間にか姿を消していた。
最初はどこぞの間者が侵入したかと思ったが普通間者があんな派手な方法で入る訳がない。
しかもあいつは見るからに隙だらけで俺が後輩達を逃がす時間稼ぎにと投げたクナイを避けもしなかったし、たまたま顔を掠めたのか僅かに切れた頬に手をやって指先に付いた血を見て顔を真っ青にしていた。
先生方に連れて行かれる時も特に抵抗するでもなく大人しく従っていたし…あいつは一体何者なんだろう?そして先程のトカゲはどこへ消えたのだろう??
気になった俺は他の六年生が様子を探りに学園長の庵へ忍び込むと言うので同行する事にした。





「さてお嬢さん、まずは名前を教えて貰おうか。あとこの学園に何の用なのか教えてくれると嬉しいのう」
「ミオシティのアヤノと言います…って、ここ学校なんですか?すみません、いきなりリザードンで着陸しちゃって…授業のお邪魔でしたよね」
「いや、丁度昼休みだったからその辺りは問題無いんじゃがの。それよりお前さんがここに来た目的をじゃな…」

アヤノと名乗った女は相変わらず隙だらけだった。よくよく観察すれば服装も今まで見た事が無い物だ。

「えーっと…私学者の卵みたいな物でして今研究しているテーマが『ポケモンと人間の関係性』なんですけどね。それで確かめたい事があってテンガン山の“やりのはしら”へ行ったらたまたまディアルガとパルキアとギラティナが小競り合いをしていて…お恥ずかしながらそれに巻き込まれてしまいまして」
「ほうほう…して、その『ぽけもん』とは何かの?」
「……………はい?」

学園長の問いに固まる女。
その瞳は「信じられない」とでも言うように大きく見開かれている。

「…や、やだなー冗談がお上手なんですから。ポケモンを知らないとか…あはははははははははは…」
「残念じゃが儂は冗談を言ったつもりはないしまだボケてもおらんぞ。…もう一度訊こうかの…『ぽけもん』とは何じゃ?」

二度目の問い掛けに血の気が引いたその顔は青を通り越して真っ白になっている。

カコーン

鹿威しの音がやけに大きく庵に響く。
女は放心状態だったがその音で正気に戻ったのか横一文字に閉ざされた口がようやく開かれる。そこから紡がれたのは我々の聴力でようやく聞き取れるような掠れた声での「…嘘でしょ…」と言う一言だった。





「…と言う訳で私の故郷ではポケモンはいて当たり前の存在、なくてはならない大事な友であり家族なんですよ」
「ほうほう!で、これは何かね?」
「それは“あなぬけのヒモ”ですね。洞窟や建物から脱出する事が出来ます」
「ほー、こりゃまた便利な代物じゃの」

あれから女が導き出した結論は「自分はもといた世界とは違う世界に飛ばされた来た」と言う突拍子も無い物だった。
最初は学園長や他の先生方も疑いの眼差しを向けていたようだが彼女が証拠として赤と白の球体から先程俺達が見た大きなトカゲとはまた違った生き物(見た目は小柄な犬みたいだったが青い犬なぞ見た事も聞いた事も無い。ついでにそいつはヘムヘムのように二本足で立って歩いていた)を呼び出した上に背負っていた袋から「どうやったらそんなに入るんだ」と訊きたくなる大量の道具を取り出して見せると学園長はそれらの用途を次から次へと尋ね、彼女は彼女で青い犬を抱きかかえたままあっさりと説明する。
…どうやら先生方はあいつの言い分を信じる事にしたらしい。
かく言う俺達もこの戦国の世には似合わない平和ボケした雰囲気を纏い、不思議な生き物を連れたあいつ…アヤノを既に信じてみようかと思い始めている。
小平太なんか今すぐにでも天井をぶち破って行きそうだ。

「(なあなあ!私アヤノちゃん…だっけ?あの子と話したい!!)」
「(我慢しろ小平太!)」
「(そうだよ、あの子が来たから教室で自習って事になってるのにサボって庵に忍び込んだなんて知られたら…)」
「残念ながらもうバレとるぞ」
「「(?!)」」
「お前達、観念してこっちに降りてきなさい」

矢羽根での会話は筒抜けだったらしい。否、もしかしたら最初から俺達の侵入に気付いていたのか…
山田先生と土井先生に呼ばれて大人しく姿を現すとアヤノは「うわっ!」と大声を挙げて後ずさった。

「…んな大げさな…」
「だ…誰だっていきなり天井から人が降ってきたら驚きますよ普通…」
「それもそうじゃの。お前達、先程から儂らが話していた内容は聞こえておったな?」

俺達が頷くと学園長はにやりと笑った。
あ、これ見た事ある。学園長がお得意の『突然の思い付き』をした時の笑い方だ。

「このお嬢さんは別の世界から来た。故に行く場所もこちらでの生活の仕方も全く分からない。そこでじゃ!元の世界に帰る方法が分かるまでここでお手伝いさんとして働いてもらう事にした!!」
「「えーっ?!」」

学園長の思い付きに俺達だけでなく、アヤノからも驚きの声が挙がる。

「何じゃ、不満かの?」
「不満と言うか何と言うか…いいんですか?ここ、忍者の学校なんですよね?私思いっきり不審者だと思うんですけど」
「自分で自分の事を不審者なんて言う輩はおらんよ。それに先程見せてもらった証拠の数々は信じるに値すると思ったからの、右も左も分からぬ年頃の娘さんを放り出す訳にもいかんじゃろうて」
「あ、ありがとうございます…!」
「但しこれだけは約束して欲しい。ここは本来ある筈の無い学園。この先学園の手伝いを頼む際外に出る事もあるだろう。その時決してここの事を口外してはならぬぞ」
「はい!勿論です!!」
「ふぉっふぉっふぉっ、よい返事じゃ。六年生の諸君もそれで良いかの?」
「良いも何も…学園長の決定に私達が口出し出来る訳が無いでしょうが」

仙蔵のぼやきに六年生全員が頷くと学園長はまた楽しそうにふぉっふぉっふぉっ、と笑ってから「後で全校集会を開いて正式にアヤノくんを紹介するからそれまで話でもして親睦を深めるといい」と俺達を送り出して下さった。
そんなに俺達が彼女と話したそうに見えたのだろうか?
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