RKRN×携帯獣

□挑戦の押し売りお断り!!
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一、二。一、二。
戸部先生が剣術の授業をしているのだろう。道場の方から聞こえる沢山の掛け声に合わせて門の前で箒を動かす。
この学園で働く事になって数日が経つけど先生方も生徒の皆も本当にいい人達だと思う。
もしカレンをボールから出したあの時、ここに着陸していなかったら右も左も分からないままいきなり異世界に放り出された私とポケモン達はどうなっていたのだろう…想像出来ないし想像したくもない。だから少しでも恩返しをしようと今日も張り切って掃除をしているのだ。
あ、そろそろヘムヘムくんがお昼の鐘を鳴らす頃ね…ここらで切り上げて食堂のおばちゃんを手伝おうかな。
掃除道具を片付けて食堂に向かおうとしたその時、こちらに向かって誰かが歩いてくるのが見えた。

「何だお前、初めて見る顔だな」
「最近働く事になったお手伝いさんなもので…あの、どちら様ですか?」
「ふっふっふ…よくぞ訊いてくれた。私の名は花房牧之介!天下の剣豪にしてここの剣術師範である戸部新左ヱ門の永遠のライバルなのであーる!!」

天下の剣豪で戸部先生のライバル?にしてはしょぼいような…あ。

「思い出しました」
「ほー!私の事を知っていたか。大方戸部新左ヱ門が私との激戦の歴史について語ったのだろう!何せ永遠のライバルだからな!!」

この人、先生方から「色々とめんどくさい奴だから中に入れないように」って言われてた人だ。
なる程、確かにめんどくさいわこれ。

「申し訳ないのですが花房さん。貴方を学園に入れないようきつく言われているのです。今日の所はお引き取り下さい」
「なっ?!小松田とかいう奴はいつも入門表にサインしたら入れてくれたぞ?!」

小松田くん…君って人はどうしてそうなの…
同い年であるマニュアル小僧の事務員に心の中でこっそり悪態を吐きつつこの人に帰ってもらう方法を考える。
今は昼食前、つまり空腹だと全く力が出なくなる戸部先生が最も無力な時間帯なのだ。はっきり言ってこんな奴にあの戸部先生がフルボッコにされる光景など見たくはない。
さて、どうしようかな…

「えーい!入れてくれないなら無理矢理入るまでだ!!」
「あ、ちょっと!!」
「あー!花房牧之介だ!!」
「帰れ帰れー!」

考えている間に花房さんは私の脇をすり抜けて学園の中へと入り込んでしまった。
慌てて追いかけるとその先には一年は組の皆と金吾くん、虎若くんが肩を貸してふらふらになりながらも歩く戸部先生の姿が。

「皆、どうしたの?まだ授業中じゃ…」
「あ、アヤノさん!」
「僕達剣術の授業をしていたんですけど…」
「戸部先生が途中でお腹空いて倒れちゃって…」
「それで授業を早めに切り上げて戸部先生を食堂に連れて行く事にしたんです」
「何てタイミングの悪い…!」
「はっはっは!運が悪いな戸部新佐ヱ門!今日こそ決着をつけてやる!いざ、尋常に勝負ー!!」

プツン

空腹でふらふらな戸部先生を見てもなお…と言うかむしろ倒すチャンスとばかりに嬉々として鞘に入れたままの剣を振り回す花房さんの入門を断ればごねられ、無理矢理学園内に入り込まれ、更に本調子ではない相手に強引に試合を申し込み…故郷のジムリーダーに挑戦するトレーナーでもここまでしないだろうと言う傍若無人な行いの数々に私の中の何かが切れた。
いや、もうアイツ「さん」なんて付けなくていいや。牧之介で充分だ。
気付けば余程牧之介の態度が気に入らないのか着物の帯に付けたモンスターボール六つ全てがガタガタと暴れている。

「…しょーがない」

本当はポケモンの存在をこの学園の人達以外に知られたくないしポケモンの技を人間相手に使うのは大変忍びない。何より私の本業は学者(のタマゴ)なのでバトルは不得手なんだけど…
私と私のポケモン達を受け入れてくれたこの学園の為に一仕事しますか。
そして私は一番激しく暴れるモンスターボールを手に取った。
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