RKRN×携帯獣

□池の姫と穴掘り小僧
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「学園長先生」
「おお、アヤノくんか。ここでの生活にはもう慣れたかの?」
「はい、お陰様で。あの、学園長先生…実はお願いしたい事があるのですが…」
「?」





四年い組の『穴掘り小僧』綾部喜八郎は珍しく落ち込んでいた。理由は不幸な偶然が積み重なって起きたとある出来事である。
まず同じクラスの平滝夜叉丸と四年ろ組の田村三木ヱ門による最早日常茶飯事と言っても差し支えのない『口論』と書いて『自分と愛する彼女(武器)がいかに素晴らしいか』と読む自慢大会が今日はいつも以上にヒートアップ。
どちらの彼女がより遠くまで飛ぶ(砲弾を飛ばせる)かと言う話になり、練習場にて滝夜叉丸の戦輪・輪子と三木ヱ門の石火矢・ユリコの放った砲弾が放たれたその時事件は起こった。
自らが所属する作法委員会の先輩である立花仙蔵がまた福富しんべヱと山村喜三太に関わった事で何かあったのか黒こげになりつつも鬼の如き形相で大量の宝禄火矢を投げながら二人を追い回していたのだがその内の一つが見当違いの方角へと飛んでいき、よりによってその着弾地点が輪子と砲弾の飛ぶ軌道上だったのだ。
地面に着弾した宝禄火矢は当然爆発。その爆発に巻き込まれた砲弾は失速して土に沈み、そして爆風に煽られた輪子は明後日の方向に吹き飛ばされてしまった。
さてここで慌てるのが勿論滝夜叉丸。輪子を救おうと必死で追い掛け、キャッチした瞬間着地に失敗して転倒。更に勢い余ってそのままゴロゴロと転がってしまい、いつものように穴を掘ろうと適当な場所を物色していた喜八郎に激突。そしてその拍子に喜八郎の愛用している踏鋤・通称踏子が彼の手を離れ、宙を舞い…

ドボン

学園の敷地内にある池に沈んだ。
しかもよりによって沈んだ場所は生徒達が入る事が出来る水練用の池ではなく、学園長が鯉を飼育している池。入れない事もそうだが広さは勿論、深さだって水練用の池の比ではない。
事態の深刻さに気付いた滝夜叉丸や仙蔵達に必死で謝罪されたがショックが大き過ぎて怒る気も起きず「大丈夫」とだけ返し、今に至る。
ただ穴を掘るだけなら他の踏鋤を使えばいいかもしれない。だが『天才トラパー』と呼ばれ、特に穴掘りへ並々ならぬ情熱を注ぐ喜八郎にとって手に一番しっくり馴染むのはあの踏子だけなのだ。

「(そう言えば以前滝夜叉丸が図書室から借りた南蛮の御伽草子に似たような話があった気がする)」

話の主役は木こりで水中に落としたのは斧。そして泉に住む女神が金で出来た斧と銀で出来た斧を差し出して落としたのはどちらかと問い掛け、木こりが正直にどちらでもない事を伝えると褒美として金銀両方の斧を与えられたらしいが…

「(金も銀もいらないから普通の踏子ちゃんが欲しいな…)」

そんな事を考えて小さく溜め息を吐いたその時だ。

ザバァッ!!

「?!」

まさか本当に女神が?
有り得ないとは思いつつも突然上がった巨大な水しぶきを凝視していると段々その正体が現れる。

「ミロー」
「…おやまあ…」

水しぶきの中から現れたのは一匹の大蛇だった。
全体は不明だがおそらく喜八郎の倍以上はあるであろう体には太陽に照らされ、きらきらと七色に輝く鱗。瞳はまるで紅玉(ルビー)の様に紅く、頭部の左右両側から桃色の長い鰭(ひれ)が女性の髪みたいに垂れ下がっている。
その神々しいまでの美しさは『大蛇』よりも『龍神』と言い表した方が正しいのかもしれない。
しかしこんな生き物がこの池に住んでいるなんて見た事も聞いた事もない。この大きさだ、目撃されればあっという間に学園中の話題になるだろう。
その事から考えられる可能性は一つだけだった。

「お前、もしかしてアヤノさんのポケモン?」
「ミロ」

頷いて喜八郎の問い掛けを肯定したポケモンは一度頭部を水中に沈めて再び顔を出す。その口には彼にとって掛け替えのない『彼女』がくわえられていた。

「!踏子ちゃん!!」

足元に置かれた踏子を持ち上げ、触って壊れてる部分が無いかを確かめる。多少水草が付着しているがその他は全く問題無さそうだ。

「ありがとう。えーと…」

踏子を助けてくれた恩人(恩ポケ?)なのだからちゃんと名前を呼んで礼を言いたいのだが初対面なので分からない。
喜八郎の推測が間違っていなければこの子にもカレンやジュジュ、コハルと同じ様に種族名とはまた別でこの子自身の名前があるはずなのだが…

「その子はね、ヒスイって言うのよ」
「アヤノさん」
「ヒスイ、迎えに来たわ。そろそろ夕方だからボールに戻りましょう」
「ミロー」
「あ」

ヒスイと呼ばれたポケモンはアヤノへ嬉しそうに頭を擦り寄せるとそのまま彼女が手にしていたモンスターボールへと吸い込まれて行った。

「(お礼ちゃんと言えなかった…)」
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