忍たま夢

□第4話
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全く暦の奴…人に講師役を頼んでおきながら私が提案した練習法に反対するとは一体どういう了見だ。

「折角あいつが上達する度に罠のレベルも上げていってやろうと思っていたのに…」
やはりそういう事か。嫌な予感がしたから脅迫してでもあれを練習メニューに組み込むの阻止して正解だったわ」
「何だいたのか暦」
「あんたが「六年生は午前の授業無いし生首フィギュア乗せて大丈夫だったんだから今日は最初から本五冊でやるぞ」って呼び出したんでしょーが!」
「ああ、そうだったな。早速始めるか?」
「うん!」

暦は元気よく返事をすると頭上に一年生から五年生までの『くのたまの友』を乗せて廊下を歩き始めた。
私はといえば暦が姿勢を悪くしたり本がぐらついた時に注意する役なのだが先日藤内が感嘆の言葉を漏らした様にこいつも厳しい修行の日々を乗り越えてきた六年生の一人なので早くもコツを掴んだらしく、既に普通に歩いているものだからやる事が無くなってしまった。
…新作の宝禄火矢に使う火薬の調合でもするか…
一応暇になっても良い用に長屋の自室から持ってきた調合道具を取り出して作業を始めようとしたその時だ。

「あ、四堂先輩と立花先輩だ〜!」
「先輩方こんにちは!ほら、ナメさん達もご挨拶して〜」

しなくていい!来るな帰れ!!むしろ帰って下さい!!!!
思わずそう叫びそうになったのを六年生の意地とプライドでぐっと堪えた私を誰か誉めてくれ。いやもう本気と書いてマジと読む位の勢いで。

「あら、しんべヱに喜三太じゃない!どうしたのその格好」
「僕達今から町で女装の実習なんです」
「町にはナメさん達連れて行けないからお留守番させる為に長屋へ戻ろうとしたんですけど…戻る途中で先輩達の姿が見えたんで寄り道しちゃいました!」
「そうだったんだ。でも…」
「「でも?」」
「しんべヱ、唇から紅がはみ出てる。喜三太は白粉付けすぎ。そんなんじゃ山田先生に駄目出しされちゃうわよ?」
「えー!」
「でもお化粧直してる時間なんて…」
「無いよねぇ…」

しょげる二人を見かねたのか暦はくすりと小さく笑ったかと思えば

「しょうがないなあ、お姉さんが一肌脱いであげますか!しんべヱ、喜三太。ナメさん達を部屋に置いたらそこの井戸で化粧落としてここで待ってなさい」
「「はーい!」」
「仙蔵、悪いけどこれお願い。ちょっとくのたま長屋行ってくるから」
「あ、ああ」

そう言って二人の頭を撫でてから私にたった今まで頭に乗せていた『くのたまの友』五冊を預け、軽やかにくのたま長屋と校舎を隔てる塀を飛び越えて行った。

「はにゃー、四堂先輩凄いなぁ…」
「喜三太、とりあえず暦が戻ってくるまでに先程言われた用事を済ませてこい」
「あ、そうだった!行こう、しんべヱ!」
「うん!」

ぱたぱたと一年生の長屋へ駆けて行く二人を見送ってから私がまずやるべきだと思い実行したのは…

「…よし」

今回珍しく二人の湿り気を回避出来た火薬を避難させる為、急いで六年生の長屋にある自室へ戻る事だった。





「ん、二人共ちゃんと化粧落としたね。じゃあまず喜三太からやっちゃおうか」
「お願いしまーす」

火薬を始め、調合道具全てを置いて先程の場所へと戻れば既に暦が一年生二人を縁側に座らせてくのたま長屋の自室から持ってきたのであろう自身の化粧道具一式が入った箱を開けていた。

「何だ、早かったな」
「だって早くしないと二人の授業始まっちゃうじゃない。そういう仙蔵こそいなくなってたからてっきり他所へ移動したとばかり思ってたわ」
「もう読まない物とは言えお前の『くのたまの友』を預かっているからな、そういう訳にもいかないだろう」
「…意外と律儀ね」
「意外とは何だ失礼な」

私と軽口を叩き合いながらも暦は非常に慣れた手付きで喜三太の顔に化粧を施していく。その手際は見事としか言い様が無い。
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