忍たま夢

□第5話
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「「タカ丸さ〜ん!私の髪を結って下さ〜い!!」」
「ひえぇ〜!!」
「…まーたやってるよあの子達…」

今日は忍術学園全体が休みの日。
流石に今日ばかりは私も忍者の修行も女の子らしくなる特訓もお休みしてのんびりしようと思っていた矢先、聞こえてきたのは複数の黄色い声と青年の叫び声。
これは青年―斉藤タカ丸が四年生に編入学してから休日の度に響き渡る物だった。

休日になるとくのいち教室の女の子達はタカ丸の下へと走る。その理由は勿論髪結いなのだが目的は各々違ってたりする。
ある子は同じくのいち教室の友人と遊びに行く為。
またある子は巷で話題の甘味屋へと足を運ぶ為。
そして一番多いのは意中の忍たまとデートする為。

『忍者の三禁』とは言うが年頃の男女が同じ敷地内で長い期間一緒に過ごすのだから何も起こらない訳が無い。
実際問題、教師陣にも既婚者はいるし学園長に至っては孫娘がいる身でありながら二人のガールフレンド持ちだ。
要するに色に溺れず節度ある交際なら良いのである。

…学園長の交友関係は節度あるのかと訊かれるとちょっと答えづらいが…

まあそれはさておき、そんな訳で彼女達は愛しの人と出掛ける為だったり片想い中の彼を思いきって誘う為にと少しでも可愛くなりたい一心で彼を追いかけ回しているのである。

「毎回毎回よくやるわ…カリスマ髪結いの息子で元髪結いってのも大変ねー」

すっかり聞き慣れてしまったそれをスルーしながら貴重な休日の使い道を思案していると一人のくのたまが視界に入った。

「おシゲちゃん」
「あ、暦先輩おはようございましゅ」
「おはよう。おシゲちゃんはタカ丸を追い掛けないの?」
「どうしてでしゅか?」
「だって今日おシゲちゃんしんべヱとデートでしょ?」

昨日急ぎの修理が入って留三郎に呼ばれ、久々に用具委員会の活動に参加したらそれはもう嬉しそうに話してくれたのだ。
その事を教えるとおシゲちゃんは恥ずかしそうに顔を赤らめ「しんべヱしゃまったら…」と呟いた。

「でもタカ丸しゃんはいつも大変そうでしゅから。それに、しんべヱしゃまはそのままの私で良いって言ってくれましゅもの」

そこまで言ったら自分の発言にまた恥ずかしくなったのか「きゃー」と松千代先生みたいに真っ赤になって両手で顔を隠している。
うんうん、相変わらず微笑ましいね君達は。ご馳走様。
でも折角のデートなんだし…よし。

「おシゲちゃん、ちょっと待ってて」
「?」

先日しんべヱにしてあげたのと同じ様に化粧をしてあげようと自室から化粧箱を持ち出し、おシゲちゃんの所へ戻るとそこにはユキちゃんとトモミちゃんの姿があった。

「暦先輩おはようございます!」
「おはよう。二人も随分とめかしこんでるわねー、誰かとデート?」
「残念ながら違いますー」
「新しく出来た甘味屋さんに二人で行くんですー」

むくれる二人へ謝罪の言葉と共に彼女達にも化粧を施してあげると言えばひどく喜ばれた。どうやら最近くのたま達の間では私に化粧をしてもらったという事はタカ丸に髪結いをしてもらう事と同じ位ちょっとした自慢になるらしい。

「何せ暦先輩の化粧の腕前は超一流ですから!似合う色とか教えてくれますし…」
「ふふ、ありがと。でもおだてても何も出ないよ?」
「おだててなんかいませんって!」
「私も暦先輩のしてくれるお化粧大好きでしゅ!」

口々に私を誉めちぎる可愛い後輩達。満更でもなくて口元をだらしなくにやけさせつつ頬を人差し指で掻いているとユキちゃんが「ところで…」と口を開いた。
…何故だろう、すっごい嫌な予感がする。

「そういう暦先輩にはいないんですか?お化粧して、可愛い着物着て一緒に出掛けたい人」

はいきた恋バナー!!
この手の質問は私の同級生達がお年頃になった頃からよく訊かれていたのでいつも通り「いない」と答える。
しかしユキちゃん達は納得がいかないらしく答えても尚食い下がる。

「だって先輩最近女の子らしい仕草習得しようとなさってるんですよね?」
「それってやっぱり気になる男の人がいるって事じゃないかと思って。もしくは彼氏できたとか!」
「今くのいち教室の下級生の間で一番熱い話題なんでしゅよ!!」

貴女達、その恋バナへの情熱をもう少しでいいから忍術の修行に向けなさい。
そう言いかけたのをすんでの所で思いとどまった。彼女達のトラップを始めとした忍術の腕前は確かだし何よりその勉強の成果を試す主な対象者である忍たま達が不憫でならない。
くのたまだって六年生ともなると仏心が出てくる物だ…同い年である六年生と一番実力が近い五年生以外には、の話だが。

「で!実際の所どうなんですか?暦先輩彼氏いるんですか??」
「だーかーらー、さっきから言ってるじゃない。彼氏はいないってば」
「えー、そうなんです「待ってユキちゃん。先輩、彼氏『は』いないって事は好きな人はいるんですよね?」

しまった、そうきたか。
さてどう返した物かと考えていたら三人はその間の沈黙を肯定と受け取ったらしい。目をキラキラさせながら「きゃー、やっぱり!」「誰なんでしゅか?」とはしゃいでいる。
まあいいや。訂正するのもめんどいし…好きな人がいるのも事実だ。

「潮江文次郎先輩じゃない?幼馴染みだっていうし」
「ないない!それより食満留三郎先輩よ!!学園一の武闘派なのに後輩には優しいし何よりずっと暦先輩と一緒に用具委員会に所属してるのよ?」
「意外な所で土井先生かもしれましぇんわ。くのたまの初恋相手アンケート1位でしゅもの」
「ふふ、残念だけど三人共はずれー」
「「「えー?!」」」

文次郎は最早姉弟と言っても差し支えない位お互いのいい面も残念な面も知り尽くしている仲なので対象外だ。
昔この手の話題を忍たまの六年生とした時に同じ返答をしたら文次郎は俺が兄だろ、とかぬかしたが奴の方が色々周り(主に会計委員会の後輩と私達用具委員会)に迷惑をかけているので絶対私が姉であると主張する。これは譲らない。
留三郎もなー…確かにいい男なんだが私が戦忍を志して鍛錬に明け暮れているせいかあいつは私を女として見ていない節がある。少しでも女だと思ってたら鍛錬の組み手で顔面パンチとかしないだろ普通。よって奴も対象外。
土井先生は…うん、かっこいいよね。優しいし。多分『彼』に出会わなかったら好きになってただろうな。

「(うー…誰なのかすっごく気になる…)先輩!ヒント下さいヒント!!」
「えー」
「お願いします!!」

結局、一生懸命頼み込んでくる可愛い後輩達には勝てなくて私は彼女達に化粧を施しつつ『彼』との出会いを語る事になった。
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