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□あのさ、普通逆じゃない?
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いつも通り朝起きて。
いつも通り修行して。
いつも通り人間に見付からないようこっそり外を散策して。
いつも通り帰って来てリビングに足を踏み入れたらいつもならいない筈の『奴』がいた。

「…っ!」

長い触角に黒光りする体。名前を呼ぶのもおぞましい『奴』は通称イニシャルG。
住居が下水道であるが故に昔から嫌でも視界に入ってくるが、俺はガキの頃からどうしてもこいつだけは生理的に受け付けなかった。
その証拠に今も心臓がドキドキと嫌な音を立てている。

「おいレオ!ドナ!マイキー!!」

スプリンター先生は朝から外出していて晩飯まで戻らないと言っていたので兄弟達を呼ぶが返事が無い。あいつらも外出しているのか、それとも修行や発明に熱中していて聞こえていないのか。
何にしても普段ニヤニヤと腹の立つ笑みを浮かべながら「相変わらずだなーラファは」と言いつつも追い払ってくれる連中がいないのは困る。凄く困る。
そして自室に入って晩飯の時間まで『奴』をやり過ごそうにも丁度自室への導線に『奴』がいる。もし自室に行く途中で『奴』に接近されたら…考えただけでも恐ろしい。

「こんにちはー。…あらラファ、どうしたの、そんな所で固まっちゃって」
「?!よ、ようアリス。ちょっとな…」
「?何隠してるの??」

そうこうしている内にエイプリルを通じて知り合った友人のアリスがやって来た。
『奴』への対策を考えるのに夢中でこいつの気配に気付かなかった…俺もまだまだ修行が足りねえって事か。
人間の女は『奴』が大嫌いだと聞くので一応『奴』が視界に入らないようわざと『奴』とアリスの間に立ってはみたが、逆にこいつの好奇心を刺激してしまったらしく俺の横から顔を覗かせて『奴』を発見してしまった。

「…ああ、そういう事ね」
「はあ?」

甲高い悲鳴の一つでも上げるかと思って耳を塞ごうとしていた俺はあまりにもあっさりとした反応に思わず間の抜けた声を出す。
そしてアリスはと言うと近くに投げ捨ててあった雑誌を手に取り、くるくると筒状に丸めたかと思えば気配を押し殺して『奴』に素早く接近し…

スパーン!!!!!

一瞬で仕留めた。
その鋭い目付きと気迫ときたらまるでレオが修行で居合い斬りをする時のようだった。

「よし!…あー、ごめん。手頃な位置にあったんでつい使っちゃったけどこれまだ読む奴だった?」
「い、いや。かなり前に下水道で拾った奴だから問題ねえ」
「そっか。それにしても意外ね、ラファがゴキ苦手だなんて」
「…悪いかよ」
「ううん、そんな事無いよ。誰にだって苦手な物はあると思うし。それと…」

男なのに虫が苦手だなんて情けない所を見せてしまったにも関わらず、アリスは呆れる訳でも兄弟達のようにニヤニヤと冷やかすように笑う訳でもなく

「良かった。ラファがあれ以上嫌な思いをしなくって」

そう言って花が綻ぶような笑みを浮かべた。
彼女の笑顔を見た瞬間、心臓が『奴』と遭遇した時とはまた違う感じでドキドキと高鳴ったのは気のせいだろうか。





あのさ、普通逆じゃない?
そして背後から聞こえてきたドナのツッコミは残念ながら気のせいじゃなかった。



(!てめえいつからそこにいた!?)
(たった今帰宅したばっかりだよ。…うわー、ラファってばバンダナと同じ位顔真っ赤。後でレオとマイキーにも教えなくっちゃ)
(ふざけんな!!!!!)
(あ、ドナおかえりー)





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