雨夜ノ星

□喧嘩を売る相手を間違えると、えらい目に遭う。
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スーはあの出会いから、神威の世話役兼薬師となった。
書類整理する阿伏兎の傍らでソファーにもたれ掛かっていると、軽いノック音の後に扉が開く。


「神威様っお食事の時間ですよー!」


明るい表情で部屋に入って来たスーは、着物から白のアオザイを着ていた。
裾を彩る桜色の刺繍は、可憐さを演出している。
神威としてはチャイナドレスを着せたかったらしいが、スーはアオザイの方が楽だと丁重に断ったのだ。
神威がチョイスしたチャイナドレスの露出が多かったのが、決定打だったのはスーだけが知る。
食事の時間を知らせに来たスーに、神威はソファーにもたれる体を起こした。


「もう、そんな時間か。」


「今日はですねっ神威様のお好きな地球のお米を分けてもらったんです。
一食くらいなら、お腹いっぱい食べられますよ。」


「スー、そういう時は分けてもらうんじゃなくて。根こそぎ貰ってこなきゃ。」


「え…!それは迂闊でした!」


「間に受けなくていいぞ。…えーと、スーシュアルダ?」


「スーで構わないですよ。かぶとさんっ。」


「阿伏兎だから。」


「あ、失礼しました。」


スーは真面目で大人しく、礼儀正しい。
前に阿伏兎に少しは見習ってほしいと、遠回しな嫌みを言われたが神威はそれをスルーした。


「広間にお食事がありますからね。」


「スーは来ないの?」


「私は用が済んだ後に、いただきます。」


スーは食事をする時は、いつもいない。
部屋を出て行った後、気になった神威は阿伏兎に聞いてみた。


「なんでだろうね?ちゃんと食べてるか心配だよ。」


「ほう、団長が人の心配をするとは。槍でも降ってきそうだな。」


「あれ以上痩せられたら、抱き心地が悪くなるからね。」


「お前さん、何してんだ!」


「寝る時に抱き枕にしてるんだ。体温高いから、ぬくいよ。」


わざとらしくため息をついた阿伏兎は、スーが出て行った部屋の扉に目線を向けた。


「…あれだろ、スーの手。」


「手がどうしたの?」


「玖珠呪は指先で毒も薬草も扱い、体内から出せる。
うっかり毒でも入ったらかなわないって、誰かに言われたんじゃねぇか?」


「………。」


「アイツはそういうことを気にするタイプのようだ。」



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