雨夜ノ星

□TPOって大事って言われるけど、要は空気を読めってことだよね。
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暗い室内のベッドの上に、もぞもぞと動く塊。
体を起こせば、頭まで被っていた掛け布団が重力にしたがって滑り落ちる。
長い黒髪が生えた頭を、うつらうつらと舟をこがせた。
普段は上げているが、下ろせば前髪の長さは肩まである。
一見見ただけでは、どちらが前か後ろかわからない。

さらにはそんな長い髪をした人物が、ふらふらと頭を揺らすのは暗い室内では若干怖い光景だ。


「ふぁ…。」


そんな髪の長い人物はスー。欠伸を一つすると、隣で寝息を立てている神威を見る。
一緒に寝ているとはいえ、一線は越えてはいない。
寝る前にいつもトランプをして遊んだり、話をするだけ。
そのまま疲れてどちらかともなく寝てしまう、修学旅行のようなノリだ。
ちなみに当初は見回りの先生が来て自分の部屋に戻されていたが、二人に改める気がないため今や放置である。
もちろんその見回りの先生は、阿伏兎だ。


(そろそろ朝ごはんの時間。神威さんを起こす前に、着替えないと…。)


順番を間違えて先に起こせば、生着替えが見たいというセクハラ発言をされてしまう。
断っても無理に脱がしに来られた事があり、その時は隣の部屋の阿伏兎に助けて貰ったのだ。
その際についたても貰い、今も部屋の隅に立て掛けられている。
阿伏兎いわく、念には念を。とのことだ。
寝ている神威を起こさないよう、スーが静かにベッドから下りようとした途端。
後ろ髪を引かれる思い…ではなく、実際に引っ張られたような痛みが頭皮に走った。


「「い゙!?」」


(え?)


てっきり神威に引っ張られたのかと思いきや、二人分の声。
目を向ければ、目を覚ました神威が顔をしかめていた。


「何するんだよ、スー。痛いじゃないか。」


「え?神威さんが引っ張ったのでは…ああ、髪が絡まっちゃったんですね。」


どうやら原因は、互いに下ろしている髪同士が絡まってしまった事のようだ。



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