雨夜ノ星

□自分が気付かないうちに、成長ってするもの。
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宇宙海賊【珍椒肉絲】艦内にて。ガラの悪そうな海賊達が取り囲む中心に、笑顔を浮かべたスーはいた。


「はじめまして。春雨より使いで参りました、スーシュアルダと申します。
宇宙海賊【珍椒肉絲】の、珍艦長様でお間違いないですね?」


「ふん、春雨第七師団団長殿が来られると思ったが…。
まさか、そなたのような小娘を寄越すとは。我々も嘗められたものだな。」


「申し訳ありません。代わりに団長から手紙を預かっています。
どうぞご拝読ください。」


「そなたが読み上げろ。」


「では僭越ながら、読み上げさせていただきます。」


神威から預かった手紙を広げれば、スーの表情が固まる。
とんでもなく非常識な内容だったからではない。いや、非常識でも書いてある方が幾分かマシだ。
しかし目の前の紙には"がんばってね。"の言葉だけ。


(な、何これ!?"がんばってね。"って、アンタが頑張れよおお!)


おそらく届けたところで相手は自分に読ませるだろうと把握し、さらには手紙の内容を即興で話さなければならない事態を予測しての"がんばってね。"なのだろう。

そこまで頭が回って、実際その状況になった自分が困る事までを予測していたのだろうか。
もしかしたら自分を困らせる事が目的なのかと、疑心暗鬼にも陥りたくなるが、今はとにかくこの状況を打開しなくてはならない。

スーは咳ばらいを一つすると、まるでそこに文字があるように読み上げ始めた。


「―…直接ご拝顔が敵わず、誠に申し訳ない。
今回は予てよりお話していた件について、お返事をいただきたい。
これはそちらの組織と、我々春雨の関係を確固たるものとする…」


スーがエア文章を読み上げる最中、その白い文面から突如刃物が飛び出す。
珍艦長が自身の腰の剣を、手紙に突き立てたのだ。
そのまま突き立てた剣を下へ下ろせば、手紙は音を立てながら破れた。



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