雨夜ノ星
□騙すのが賢い奴なら、騙される馬鹿になる。
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「神威さん、何だかご機嫌ですね?」
スーは朝の日課である、神威の髪を三つ編みをしながら問う。そんなスーの表情は明るい。
「そういうスーも、嬉しそうだね。」
「神威さんが嬉しそうだからですよ。」
「スーは可笑しな事を言うね。今日はさ、久々に思う存分戦えるから。
ま、楽しめる相手がいるかはわからないけど。」
「あれ?そんな連絡ありましたっけ?」
自分にはそんな連絡は無かったと頭を捻るスーに、神威は犯人が誰かすぐにわかった。
「あー阿伏兎の奴だね。スーを連れて行くつもりじゃないんだよ。」
「そうですか…。」
「俺は連れて行くつもりだよ。一緒に来るだろう?」
「はいっ!」
出発時間になって移動用の小型船に向かえば、先に待機していた阿伏兎が呆れた顔をしたのは言うまでもない。
しかし此処まで来られて、降りろ降りないと押し問答をすれば士気に関わる。
ちらりと神威に目を向けると、本人は素知らぬ顔で鼻歌を歌っていた。
(あのヤロ…わかって連れて来やがったな…。)
「…スー、到着してもお前さんは船で待機してろ。
それが連れていく条件だ。」
「大丈夫だよ。スーはそう簡単に死なないさ。」
「お前さんは一人でどんどん先に進んじまうんだから。
足手まといになるだけだろ。」
自分が大丈夫だと言っているのに。頑なにスーを前に出したがらない阿伏兎に、神威は面白くなさそうな目を向ける。
「阿伏兎さぁ…スーの事、心配するには過剰じゃない?」
「それは…。」
「っわかりました!私は船に残って警備しますっ!それも大事な務めですもんね!」
言い淀む阿伏兎に、スーが遮るように挙手をもって返事をした。
それにより、話は強制終了となる。
(スーのことになると阿伏兎は過保護になるし、スーは何か隠してるみたいなんだよね…。)
神威は納得しないような様子だったが、ごねて出発が遅れるのは嫌だ。
それ以上は、何も言わないことにする。