雨夜ノ星
□TPOって大事って言われるけど、要は空気を読めってことだよね。
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「おかしいですね。絡まないよう纏めてたのですが…。」
いつもは絡まないよう、後ろで一つに縛っていたのに何故。
絡まった髪を解きながら、ふと体を起こして胡座をかいていた神威を見れば、その手には自分が昨晩寝る前に使用した紐が握られている。
「神威さん、神威さん。」
「ん?何?」
「その紐…。」
スーに言われて気付いたように紐を見れば、神威は思い出したとベタにも手を叩いた。
「ああ、そういやスーの髪で遊ぼうと解いたんだった。」
ケラケラといつものように笑う上司に、スーは仕方ないかと引き続き絡まった髪を解く。
そんな時、頭に浮かんだ事を呟いた。
「…髪、切ろうかな。」
「今、何て言った?」
「え?」
独り言のつもりで何気なく呟いた言葉に、神威がにこにこと笑顔で詰め寄る。
笑顔なのに怖いのは何故、どこか怒りを感じるからだろうか。
「い、いえ?特に思い入れもないですから。
切っちゃおうかなーと…。」
「駄目だよ、勝手に切っちゃあ。殺しちゃうぞ。」
「それで殺しちゃうんですか!!?」
「髪は女の命なんだろう?切っちゃえば死んだも同然なんだから、いいじゃない。」
「その言葉を作った人、そんなつもりじゃなかったと思いますけど!?」
「人生そんなもんさ。思い通りにいかないことだってあるよ。」
「神威さんの思い通りにいかないことなんて、そうは無いんでしょうね。」
「…そうでもないんだけどね。」
「え?」
「とにかく、勝手に切っちゃ駄目だからね。」
「わ、わかりました。」
「ん。いい子、いい子。」
神威に頭を撫でられるのが好きなスーは、顔を綻ばせて喜ぶ。
そんなスーを神威は目を細めて見つめるが、すぐにいつもの笑顔を向けた。
「ねぇ。着替えてないってことは、生着替えを見せてくれるのかい?」
「見せません!」