雨夜ノ星
□ただの夢だって、馬鹿に出来やしない。
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走り出した沖田は取調室を目指す。そのただ事ではなさそうな様子に、廊下を歩く隊士は道をあけた。
(まさか…っ。)
総悟の脳裏を占めるのは、夢に出てきた少女。何処からともなく現れて暫く一緒にいた少女は、あの日を最期に姿を消した。
伸ばされた手を振り払ってしまった過ち。あの瞬間の、少女の顔が忘れられなかった。
少女は、自分に助けを求めていたのに。
取調室では、現在もマヨネ談義に花が咲いたまま。取調べの内容を記録していた隊士は、ついに筆を置く。
「副長…っ記録帳がマヨネーズの話題で埋め尽くされます。そろそろ切り上げて、本題に入ってくださいっ!」
「わ、わーってるよ。あれだ、興味のある話題で心を開かせようとしたんだよ。」
「明らかに心を開かされてたのはアンタだろ!!」
すっかり意気投合した二人はマヨネーズ談義をしていたが、部下からの申し出に土方は咳ばらいをして切り出す。
「まあ、この話は置いといて。今更だが、名前は?」
「黙秘権使っていいですか?」
「ここから!?名前くらいで黙秘すんなよ!!っ住所は!?」
「不特定。」
「年齢は…!?」
「いくつに見えます?」
「キャバクラか!!テメッ人をおちょくんのも大概にしろよ!?」
「おちょくってなんかいませんよ。いちいちリアクションする愉快な地球人だなー、なんて思ってません。」
「楽しんでんじゃん!!?っあ…?お前、今地球人っつったか…?まさか天人なのか?」
「そうですよ。見た目はよく似ていますけど、天人です。ここには観光に来たんですよ。ケーキはお土産だったのに…。」
「まだ引きずってんのかよ…。わーったから、後でコンビニにでも…」
「開店一時間前から並んで買ったケーキが、コンビニスイーツで埋められるわきゃねぇだろうがァア!
首締め上げられた、七面鳥のような声出させられてェのかワレェエエ!!」
「さっきから感情の起伏が激し…!!」
穏やかに笑っていても、突然キレる相手に土方はどう扱えばいいのかと手を焼く。その時、取調室の扉が勢いよく開いた。