Gray short dream
□死んで花実が咲くものか
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数年前まで、私は小さな町のパン屋の娘だった。
毎朝早起きして、夜遅くまで仕込みをして。裕福な暮らしではなかったけど、親子三人で一緒に頑張ってきた。
焼きたてのパンの匂いが好き。
毎朝焼きたてのパンが食べられるのって、なんて贅沢なんだろうと思っていた。
私には夢があったの。両親の店を継いで、将来結婚したら、その子供も私のように継ぎたいと思ってもらえるような店にすること。
なのにいきなり化け物に家族を奪われ、町も壊され。
家族の亡きがらを前に、私は何も出来なくて。
苦しくて、悔しくて。
何もかも失った私は死を選んだ。
喉にナイフを当てた途端、光る球体が私の前に下りて来た。それを追うように見知らぬ男と、青年が現れる。
「君はイノセンスに選ばれたようだ。」
「っ来ないでよ!」
震える手でナイフを向けると、男は優しげに微笑んだ。
「可哀相に…そんなに震えて。もう大丈夫だよ。」
「うるさい!!私にはもう何もないっさっさとどこへでもいけ!」
「早まっちゃいけない。捨てる命はないんだから。」
「捨てる命はない?そうね…不条理に奪われる命があるのに、自ら死ぬなんて馬鹿げてるよね。
…だったらさ、家族を生き返らせてくれるの?」
「それは決して願ってはいけない。」
間髪入れずに言った男の真剣な眼差しに、堪えられなくて何かが切れた。
「願うも何もっ叶うわけがないじゃない!!死んだ人はもう戻ってこないっそんなのわかってる!
だから…会いに行くしかないのよ!!!」
ナイフを振り上げた途端、その手を握られた。綺麗な黒髪の青年は眉間にシワを寄せ、開いた片方の手で私の頬を叩く。
渇いた音が響いた。
「いった…何すんのよ!」
ただでさえ訳のわからない化け物に家族も友達も殺されて心が痛いのに、頬まで痛くするなんて。
睨めどその青年は睨み返してくる。
「死んで何になる。」
「私にどうしろって言うのよ…!」
「エクソシストとなって、AKUMAと戦え。」
「は…?悪魔?」
「お前の町を襲った化物のことだ。」
「っ何を言うのかと思えば、家族を奪った化け物と戦え?…最低。イノセンスが何?そんなの知らないし、今更戦う力を持ったって遅いのよ!」
そう叫んだ私に、青年は言った―…