Gray short dream

□残っていたメモリー
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何かが壊れる音がした。

黒い刃が体を貫いて、聖なる力が体を破壊していく。
頭に刻み込まれた記憶の残骸が駆け巡った。
ほんのわずかに残っていた記憶は、愛しくて悲しい。

私はあの子の親友で。

あの子は私の好きな人の好きな人で。

結ばれた二人に涙し、死を選んだ私にあの子は嘆いた。

そして、願ってはいけない願いを悪魔に願ったのだ。
私に自分を殺して欲しいと笑ったあの子の心は、もう壊れかけていたのだろう。


"大丈夫。ちゃんと、ユウが壊しに来てくれるから―…"


そう泣きながら笑うあの子を殺したくなかった。どうして?私なんか忘れてしまえばいいのに。

だけど体は言う事を聞いてくれない。操られるままにあの子の体を貫いて、私はAKUMAになってしまった。


「…すまねェ。」


いつも凛々しく、強い光を宿した彼の瞳は滲んでいる。


(ごめんなさい。私は貴方に残酷なことをした。)


肩を濡らす涙が、胸を締め付ける。


(ごめんなさい。私は貴方に残酷なことをさせた。)


力強く抱きしめられた体が虚しい。


(ごめんなさい。私はあの子を、貴方から奪ってしまった。)


抱きしめてくれる腕を、呼んでくれる声を。求めていたのに―…なんて、虚しいんだろう。
だって、貴方は私を見ていないんだもの。


「守れなくてすまねェ…っ」


あの子を愛した貴方。

私なんかの為に、悪魔に願ったあの子。

一人置いていかれたと、勝手に死んでいった私。

あの子の大切さを思い出した時には、もう手遅れだった。

…ああ、私は大切なモノを失ってばかり。

いくら人間を血に染めても、記憶の残骸が私を人間に留めていた。

AKUMAは殺戮兵器。涙なんか流さないもの。

ああ、私はあの子の姿になったのに…それでも貴方は、私の為に泣いてくれないのね。

薄れゆく意識の中、あの子と見た青空を思い出す。
どこまでも青くて。雲一つない景色に、子供のようにはしゃいでいた。


"ねえ見て!海と空が繋がってる!"


"馬鹿ね。海と空が繋がるはずないじゃない。"


"繋がってるよ。見えなくたって、ずっと向こうの先に。"


(いっそ…すべて、わすれられたなら―…こんなに悲しくなかったのに。)


残っていたメモリーに、私は殺されていく。それもいい。


(ずっと向こうで、私と貴女は繋がっているのかしら。)


end

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