紅の死神
□墓なしの村
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日の光が一切無い真夜中は、蓮華が最も活動しやすい時間。この時間に蓮華は鍛錬を積んだり、神田の傍にいる。
今回は神田が任務に出ている為、鍛錬に集中しようと森に向かう廊下を歩いていると、聞き覚えのある声がした。
「蓮華っおっひさ〜♪」
「…もう少し声を抑えろ。何時だと思っているんだ。」
広い廊下に響き渡る声の主を諌めるように言うと、悪い悪いと言いながら笑顔でやって来る。
眼帯をした赤髪のその青年の名は、ラビ。
「今は草木も眠る午前3時さ。相変わらず、昼夜逆転してんだなぁ。」
「ラビこそ、相変わらず昼夜問わずテンションが高いな…。任務帰りか?」
「そ。ハズレだったけどな。」
(同行している筈のブックマンがいないという事は、もう部屋で休んでいるのだろうか。)
「ブックマンも、こんな夜中に帰還はつらいだろうな。もう休んでいるのか?」
「帰った途端、バタンキューさ。」
「だろうな。ラビも早く体を休めないと、生活リズムが狂うぞ。」
「わーってるさ。蓮華はこれから鍛錬?」
「ああ。じゃあな。」
「おう、んじゃな〜オヤスミ。」
ラビと別れた後、森に入る蓮華はふとこの前の夢を思い出した。
(何なんだよ一体…。)
夢の中の狂気めいた笑み。それが頭に浮かぶと同時に、胸に痛みが走った。
「チッ…!!」
突如襲う発作に、蓮華はウエストポーチから薬を取り出す。自分でも打てるように作られた注射器を腕に刺して薬を注入した。
木に寄りかかりズルズルと座り込むと、肺いっぱいに空気を取り込んで深呼吸する。
「…ほ、んと厄介な体だ…。」
蓮華は自嘲するように鼻で笑って、空になった注射器をポーチに戻した。
(思い出したら、何とか出来るかもしれない…。そうだ、思い出す事を恐れてどうするんだよ。
たとえ今の私じゃなくても、私に変わりはないんだから受け入れなきゃ駄目なんだ。)
「僅かな希望でも、縋りつかなければ…これからも、ユウと一緒に生きるために…。」
(でも、私が私でなかったら?私でなくなってしまったら?)
消えない不安を振り払うように、強く地面を叩く。
(…まずは思い出す事が優先だ。その後の事を考えて踏み出す事を躊躇うくらいなら、考えないほうが良いだろう…。)