紅の死神

□墓なしの村
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「蓮華っ大丈夫ですか!?今引き上げますからっ頑張ってください!」


アレンは崖の前に俯せになって、発動させた左腕を伸ばした。しかし二人は届かない。


「届け…!」


身を乗り出してさらに手を伸ばすが、それでも届かなかった。自分と少女の体重で徐々に抜けていく木に、蓮華は少女に向けて苦笑いをする。


(犠牲があるから救いがある。迷ってる暇はない、か…。)

「悪いな。もう一度、怖い思いをさせる。」


「え…?」


まさかこの手を離すのだろうか。不安に染まる少女の目は、次の蓮華の言葉に大きく見開かれる。


「おい!このガキを投げ飛ばすから受けとめろ!」


「わっわかりました!」


(投げ飛ばした後、千桜を発動させて崖に突き刺せば川へ落ちる事は避けられる…っ。

後はその時考えればいい!)


アレンの目を見て叫んだ蓮華は、返事を確認して再び少女へと目を向けた。


「お前…母親はいなくても、父親はいるんだろ?」


「う、うん。」


「祝ってくれる人が、いるじゃないか。お前は一人じゃない。」


「―…」


「今は寂しくても、いつか受け入れられる日が来る。だから今は勇気が必要だ。
私は今からお前を放り投げる。上にいるアイツが、絶対に受け止めるよ。」


「やっやだ!怖いよ…!」


「言っただろ。今は勇気が必要だ。歯を食いしばって、目を閉じて。
この怖い思いを乗り越えられれば、きっとお前の母親も褒めてくれる。」


「ほん、と…?」


「勇気を出して頑張ったら、いつもお前の母親はどう言っていた?」


「が、がんばったわね…って…!ほめて、くれたよ。」


「なら、頑張れるな?」


「うん…!がんばる…!」


「いい子だ。歯を食いしばれ…っいくぞ!」


蓮華は反動をつけて、思いきり少女を上へ投げ飛ばした。その反動で、木の根が崖から抜け落ちる。
少女を受け止めたアレンは、その光景に青ざめた。


「蓮華!!」


落下しながら千桜を発動させようと右手首に手をかけた時、蓮華は妙な感覚を感じた。


体を支配する浮遊感。視界に広がる空。


どこかで感じた感覚。どこかで見た光景。



ワタシハシッテイル


コノ カンカクヲ


「蓮華ーっ!!!」


墜ちていく体。さらに激しさを増す雨は、水の入ったバケツを逆さにしたような雨だった。


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