紅の死神
□記憶の欠片
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白衣を纏う人間。薬品の匂いが染み着いた部屋。
わからないのに、知らない筈なのに。
ナツカシイ、カナシイ、クルシイ。
いろんな感情がいり混じって、気持ち悪い。
"さあ、君は当たりかな?"
そう笑った男は誰だったか。
「―っ痛…!」
蓮華は目が覚めた勢いで起きあがろうとするが、鋭く走る痛みに再び体を倒した。辺りを見回せば、どうやら屋内のようだ。
右目に違和感を感じて手を当てると、ガーゼが貼られていた。他にも見回すと手には包帯が捲かれていて、誰かに手当てを受けたらしい。
その人物は此処にはいないようだ。
「さすが科学班特製の団服だな。手や顔以外は、打撲で済んだみたいだ。」
団服の丈夫さに改めて感心していると、意識を失う前の事を思い出した。ぼんやりとした視界に映った人影。
(いや、ユウがいる筈がないか…。それよりも連絡をつけなければ。)
痛む体に耐えて部屋を出ると、暗い広間に出た。階段の手すりに触れるまでもなく、埃が目につく。
(…これだけデカい家なのに、掃除がされていない。という事は今は廃屋か。
電話の回線は、まだ繋がっているだろうか…。)
望みは薄いが、この森に囲まれた場所では通信機器が頼りだ。
一階に電話を見つけた蓮華は、わずかな望みに賭けて、薄暗い階段を降りていった。