紅の死神

□記憶の欠片
1ページ/9ページ



白衣を纏う人間。薬品の匂いが染み着いた部屋。

わからないのに、知らない筈なのに。

ナツカシイ、カナシイ、クルシイ。

いろんな感情がいり混じって、気持ち悪い。


"さあ、君は当たりかな?"


そう笑った男は誰だったか。


「―っ痛…!」


蓮華は目が覚めた勢いで起きあがろうとするが、鋭く走る痛みに再び体を倒した。辺りを見回せば、どうやら屋内のようだ。

右目に違和感を感じて手を当てると、ガーゼが貼られていた。他にも見回すと手には包帯が捲かれていて、誰かに手当てを受けたらしい。
その人物は此処にはいないようだ。


「さすが科学班特製の団服だな。手や顔以外は、打撲で済んだみたいだ。」


団服の丈夫さに改めて感心していると、意識を失う前の事を思い出した。ぼんやりとした視界に映った人影。


(いや、ユウがいる筈がないか…。それよりも連絡をつけなければ。)


痛む体に耐えて部屋を出ると、暗い広間に出た。階段の手すりに触れるまでもなく、埃が目につく。


(…これだけデカい家なのに、掃除がされていない。という事は今は廃屋か。
電話の回線は、まだ繋がっているだろうか…。)


望みは薄いが、この森に囲まれた場所では通信機器が頼りだ。
一階に電話を見つけた蓮華は、わずかな望みに賭けて、薄暗い階段を降りていった。



次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ