紅の死神

□死神と悪魔の真実
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私は、彼女に憧れていたのかもしれません。私には、最初から感情があったのです。

アイリスの憎しみも、羨む気持ちも。表情も含めて全部…私が、彼女から奪ってしまったようなものでした。

故に、彼女は空っぽだったのです。私は中からずっと、そんな彼女を見ていました。

町人達に恐れられ。一人で生きていくことを強いられた彼女に、その時は悲しみもなく。
生きていく術を自力で身に付けていったのです。

貴女は一人ではありません。

私がいます。

私がずっと、傍にいますわ。

彼女を見ているうちに、自分が表に出られないもどかしさはいつしか無くなってしまったのです。

いつか、私に気づいてくれないでしょうか?誰よりも傍にいるから、気づけないのですね。お話が出来れば良いのに…。

いつも無表情なのは寂しく。どうにかしたくてもイノセンスの鏡が邪魔をして、何一つしてあげられませんでした。

なら、変わらないでいてほしい。ずっと、私が知っている貴女でいてほしかった。

しかし、終わりは来てしまったのです。私が誰よりも彼女のことをわかってあげられると思っていたのに。

老婆の親切は、私にも嬉しいものでした。彼女が美味しくて栄養価の高い物を食べられるうえに、木の実だけでは肉体的にもたなくなるところだったからです。

お礼の花も良いでしょう。親切をしてくれた老婆に相応しいのですから。

しかしもう一人、彼女に影響を与える人間が現れてしまったのです。

エクソシストの神田ユウ。

あの男と関わるようになって、彼女は変わってしまいました。

涙を知り、笑顔を知り、字を覚え…他の誰かの手でどんどん彼女が変わっていくことは、私にとってこれ以上にない屈辱。

その挙げ句。彼女はあの男をこの上なく愛した。

何物にも執着しなかった彼女が初めて執着したモノ…。

私はあの男よりも傍にいたのに、どうしてですか?

私の怒りはダークマターの力を増幅させ、彼女を苦しめることしかできなかったのです。

何とか二人を引き離したかった。

きっと、彼女はいつか傷付くに決まっている。予想通りこの間のコンタクトの時、彼女の意志は揺らいで脆くなりかけていました。

傷付けるなら、最初から関わらないで欲しい。

ですがそれと同時に、あの男が彼女をどれだけ大切にしているかも私はわかってしまったのです。



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