太陽と月の土壇場

□始まりは冷たい雨の中で
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雨の降り注ぐ町中で、パシャパシャと水たまりの上を駆ける音が響く。それは次第に遅くなり、ついに少女は地面に倒れた。
雨が容赦なく肌を濡らす。肌に張り付く着物が、気にならなくなったのは何時だったろうか。


(このまま死ぬのかしら。だとしたら私はやっと自由になるの?

…自由って、何なのだろう?)


物心つく前に両親を失い、親戚らしい人の所で少女は今までを生きてきた。
両親とは仲が良くなかったのか、何をするにしてもいちゃもんをつけられ。嫁にきたわけでもないのに、嫌な姑を持ったようだった。

だから毎日ふと物思いにふけっては、自由になりたいと願っていたのである。

そして今日、危うく人買いに売られそうになったところを逃げ出してきたのだ。

育ての親曰わく、そのために引き取ったらしい。


(ああ、どうして。父母は私を置いて逝ったのか。

親として子に生きて欲しかったのだろうけど、私は幸せではない。)


あの家を出てきた今、行く宛てもお金もない。自分一人が死んだところで、世間は何ひとつ変わらずに日が昇って暮れる。

途端に自分がちっぽけな存在に思えた。どんなに頑張っても報われないなら、これ以上生きることに執着する意味もないのではないかと。


(もう、いい…生き恥を晒すくらいならば、いっそこのまま…。)


疲弊した少女の瞳が曇天の空を映したまま、ゆっくりと閉じられた。



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