Gray short dream

□死んで花実が咲くものか
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「神田の女顔、蕎麦中毒者、パッツン侍。」


馬鹿にした言葉を並べればアンタはいつだってマジに怒って、ムキになって私の悪口を言った。


「文句の一つも返さないなんて、アンタらしくないわね。」


そう、黙って寝てるなんてアンタらしくない。今にも泣きそうな掠れた声を出す私も、らしくない。

返事が無いのは当たり前。

怒らないのも当たり前。

だってアンタの魂はもう此処にはないんだから、亡骸という器だけを残して。


「…綺麗に殺して貰ったのね。羨ましいわ。」


そう呟きながら、眺めるのは棺の中。誰もいない大聖堂で私の声だけが響く。
私は真っ黒な団服を纏っていた。装備型のエクソシストとして、ティエドール元帥に師事し、神田とも多くの任務を共にしてきたのだ。

しかし今回は違った。私と神田は別々の任務を任されていたのである。
先に帰還していた私に知らされたのは、神田の殉職だった。


「さすがに神田みたいな美人さんをめちゃくちゃにするのは、気が引けたのかしら?
それともアンタの回復力が早かったから?」


嫌味っぽく言ったって神田は目を覚まさない。その頬に指を滑らせると、冷たい温度が伝わる。

改めて死を痛感すると、もう冷静でいられなくなった。

彼は、もういないんだ。

込み上げる思いを振り払うように、棺に力いっぱい拳を振り落とした。

何回叩いたかなんてわからない。手が痛いのかさえわからない。

ただわかるのは泣き叫びたいということ。


「アンタさぁ…っ私に何て言ったか覚えてんの…!?」


目の前が歪み、これ以上見ていられなくて俯けば、瞳から零れた雫が手の甲を打った。

喉が震えてもう喋れない。

何より涙声なんて、情けない声を聞かれたくない。


"今更戦う力を持ったって遅いのよ!"


"遅くたってこれからがある。どんな状況にあっても、生きていればなんらかの可能性が生まれるもんだ。

死んだら全部おしまいなんだよ。どんなことがあろうとも、生きる事を諦めるな。"


「【死んで…花実が、咲くものか】…!」

(教えてくれたのは貴方なのに…っどうして世界にいないの…!)


end
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