紅の死神
□土翁と空夜のアリア
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夜―…マテールに向かって走る蓮華はマントを脱ぎ、昼間の体調の悪さが信じられないほど快調に走っていた。
隣を走る蓮華に、アレンは安堵した明るい表情を見せる。
「具合はもう大丈夫みたいですね。」
「日が沈めば、至って健康なんだよ。」
"日が沈めば"その言葉に、アレンは汽車の中で神田から聞いた言葉を思い出した。
原因不明の体調不良。本当ならこんな過酷な任務から外れて、詳しい検査や静養するべき体のはず。
しかし、蓮華はそれを望まない。そしてそれを教団は良しとしている。
イノセンスに選ばれた使徒だから。
(きっとそれが、この人がこの場所にいる理由なんだろうな…。)
自分ではどうしようもない。しかしどうしようもない歯痒さを感じる。
しかしアレンは任務に集中しなければと、話をそこで打ち切る事にした。
「…それにしても、マテールの亡霊がただの人形だなんて…。」
「イノセンスを使って造られたのなら、ありえない話じゃない。」
神田がそう口にした途端、周囲に感じた冷たい殺気を感じる。
(何だ、この冷たい感触は…探索部隊の人達は…?)
ピリピリとした空気に、神田と蓮華の2人が探索部隊の死を察した。
「ちっトマの無線が通じなかったんで急いでみたが…。」
「殺られたみたいだな。」
「……。」
「おいお前、始まる前に言っとく。
お前が敵に殺されそうになっても、任務遂行の邪魔だと判断したら俺はお前を見殺しにするぜ。
戦争に犠牲は当然だからな。変な仲間意識持つなよ。」
「嫌な言い方。」
「テメ…」
アレンの発言を聞き捨てならないと反論しようとした蓮華だが、大きな爆発音と銃声にかき消される。