太陽と月の土壇場

□早起きは三文の徳って本当?
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ガシッと首ねっこを掴まれた先に、お蘭は目を向ける。するとそこには、台所の鬼である女中頭の早乙女がいた。


「柏木ちゃーん…?アンタは今日、庭の掃除のはずだったわよねぇ?なぁに油売ってんだい?」


「ひゃあぁあ…!」


「早乙女さん、おはようございます。」


「おはよう。あら、大根の葉で混ぜご飯かい?アンタもまめな子だねぇ。」


「捨てるには勿体ないですから。」


「うんうん、その通りさ。如月ちゃんは良い嫁になれるよ。」


「私は…。」


「私は!?なれるかな!」


「アンタはまず、つまみ食い癖を直しなさい。ほらっ行くよ!」


「はーい。じゃあねっ!」


二人が台所から出ていくと、翡翠は味噌汁の鍋に豆腐とねぎを入れて蓋をする。


「………。」

(素性も知れぬ私を、嫁になんて。)


誰が好き好んでもらうのか。翡翠は気を取り直して、梅を包丁で叩く。その梅肉と茹でた大根の葉を一緒に炊きたての御飯に混ぜ込んだ。
その混ぜ御飯を三角の形に握っていると、後ろから手が伸びてくる。


「握り飯いただき。」


ひょいと、にぎり飯を持ち上げて口に運んだ相手に翡翠は口元を緩ませた。


「おはようございます、沖田さん。今日はお早いですね。」


「柏木の奴が、毎朝つまみ食いしてると聞きやしてねェ。不公平でしょイ?」


「今日、一番につまみ食いされたのは沖田さんですよ。」


「そりゃ、早起きした甲斐があったってもんだぜィ。」


翡翠も屈託なく笑う沖田に釣られて、微笑んだ。総悟はにぎり飯を飲み込むと、冷える台所に体を縮める。


「今日も冷えまさァ、水仕事も大変でしょイ。」


「そうですね。でも、楽しいですから。全然、苦じゃありません。」



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