SF・ホラー・ファンタジー

□仮
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 魔女にドラゴン、ヴァンパイア、精霊に天使、そして悪魔――――…。
 架空の産物として現世に語り継がれる者達。
 彼等はどこからともなく突如に現れ、人々に大いなる力を振るったという。それらは決して幸福だけでなく、災いをも持たらした。良くも悪くも人々は彼等を恐れ、そしていつしか彼等は人々によって少しずつ葬られていった…。

 果たしてこれが全て、真実なのか?

 人は己の非を認めることに劣っている。
 そしてその非を正当化させようとすらする。

 もしそれらが嘘だったら?
 都合よく歪められた過去だったら?
 どれが本当で嘘かなんて、誰にも証明できないけれど――――…

 今から語るのは一人の男の記憶。
 これだけは偽りの無い真実――――…。



「また貴族のペットが逃げ出したそうよ」
「まぁ、恐ろしい」
「本当物騒で仕方ないわ。貴族ときたら一般市民のことなんて頭の隅にも無いんだわ」
「えぇ、まったく……それにしても、早く捕獲されるといいわね。政府はもう動いているのでしょう?」
「そうそう、大騒ぎみたいよ。国王の留守の間に好き勝手して、そりゃあ焦るわよね」

 オペラ、舞踏、乗馬……それらがいかに美しききらびやかな社交の世界だとしても、慣れてしまえばその色も褪せる。人は無いものねだりで、そして日々を持て余している者は非日常を求める癖がある。

『錬金術』

 贅沢な暮らしの繰り返しに飽きた、一部の貴族らによって造り出された科学(遊び)。

『錬金術:全てのものは火・土・気・水、乾・湿・熱・冷から創り出されている。そしてそれらの組み合わせ次第でいかなるものをも創造することが可能である』

 貴族たちはその科学(遊び)に飛びつき、様々なものを生み出した。
 人よりはるかに強いもの、弱いもの、美しいもの、醜いもの…。
 気高きドラゴン、忠実なる精霊、混沌を求める悪魔…。

 新しい生命を生み出しては、その強大な力に感嘆し、そして恐れ叫のき封印を施しコレクションとしていく。
 悪趣味な遊び。神への冒徳。
 生まれてすぐに自分が何者かも分からぬままに飼い殺しにされる哀れな生き物たち。

 愚かなる者たちの勝手によって誕生させられた生命。
 時にして、彼らは人々に牙を剥いた。
…――――ドウシテ私ハ生マレタ、と声にならない叫びをあげながら…。


「…――――お前ら、ちょっ、ちょっと待てっ…て……!」
 紐を逃れて駆けて行って、そしてお次はやかましく吠え出す愛犬たちに、オーディネリは溜め息を漏らした。幾らか走らされたため息を荒くし、やっと追い付いたと思うや否や、こう巻く仕立てられたんじゃ適わない。やれやれとばかりに彼は犬たちが示す先を見た。
「どうせまた、鍋の蓋とかそんなのに…――――――っておいっ、大丈夫かっ!?」
 その草の茂みには、一人の少女が横たわっていた…。



「……ん…?」
 少女が目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋。ベッドから少し体を起こして周囲を見回す。
「…――――あ、目覚めたんだ。ほら…これ食べる?」
 勝手口らしき所から出て来た男が、片手に陶器の皿を持って言った。
「ワンワンワンワン…!」
 男を追ってやって来たのだろう、四匹もの犬たちが彼の脚にまとわりつく。
「…っと、…この…これはお前らのじゃないってっ!」
 そんな、本来ならば微笑ましい光景を彼女は無表情に眺めていた。
 そしてたった一言。
「いらない」



「オーディ、オーディっ」
「ディじゃない、オーディだよ」
「だってディのほうが呼びやすいだろう?」
「いや、そういう…」
「っそれより、この草は食べられるのか?」
 言葉を遮り、少女は喜々として尋ねる。
「…あぁ、大丈夫だけど」
「そうか。じゃあ、もっと採ってこよう」
 くるりと踵を返し走り出そうとする彼女の背には、枯れ草やら何やらがべったりとくっついている。
「…あ、ヘイト、ヘイト!」
「?…なあに」
「背中汚れてる。ちょっとおいで」
 オーディがヘイトの背を軽くはたいてやると、彼女は「ありがとうっ」と屈託なく笑ってまた駆け出した。その後を四匹の犬たちがワフワフと追って行く…。

 木陰の青臭い草の上に座り思う。
「…よかった…」
 ヘイトと初めて出会ったのは半月ほど前。
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