□禁断の恋
1ページ/1ページ







アリエッタは


イオン様が大好き…です

今でもずっと


だけど












「早く歩きな、アリエッタ」

「ぅ、待って…シンク」

背が低く、どこかおどおどとした少女にとって、
緑の髮の、華奢な身体で俊敏に動く少年を追って歩くのは大変なのだ。

アリエッタは緊張を胸に、似たような作りで部外者を惑わせるダアト教会の長い廊下を、おぼつかない足どりで歩いていた。
同じ六神将という組織のメンバーであるシンクを、盗み見ては頬を染めて視線を落とす。

なんて哀れで薄情な乙女だろう、
愛する人を亡くし
孤独の中で
やっと見つけた甘美な恋は
愛する人と
等しく非なる存在


恋してしまった


今日のシンクは仮面を外していて、まるで導師イオン。
だが、イオンはあからさまに皮肉を表に出したり、引きつるような笑みを見せたりすることは無かった。

ところで、
桃色の髮の少女の恋心はまさにそのさらさらの髮と同じ彩り。

どきんどきん!

でもそれはどうして?
導師イオンに似ているから?
彼の珍しい素顔だから?

前者後者、いったいどちら?


――と、シンクが急に立ち止まり振り向く。
アリエッタは鈍臭くも彼の胸元に頭をぶつけ、「むひぁ」と妙な声を漏らし慌てて顔をあげた、

「ごめんなさ…、…!!」

すると予想外に二人の顔が接近していて、アリエッタはしばらくの間、機能停止のロボットの如く硬直してしまった。

「さっきから僕のこと見てるよね、何?」
彼は少し怒っている気がする。
思わず首をすくめてしまう。
「ていうか僕の顔が気になるの?」

ぎくりとしてばっと顔をあげると、そこには白い肌に綺麗な緑の髮と眸をした女の子みたいな少年の顔があって。
無意識に緊張した頬がみるみるうちに真っ赤に染まる。

その時だった。
シンクは眉間にしわを寄せ、一気に不機嫌になった。

「そう、そんなにあいつが好きなんだ」
彼は皮肉たっぷりにそう吐き捨て、足早に先へと進む。

「ぁ、シン、…!」

彼女にはどうしようもなかった。
ただ舌足らずに彼の名を呼んで、必死に後を追った。

そもそも自分の心情さえうまく理解出来ないのに。

まさか彼の不機嫌が、導師イオンに対する、激しく燃え盛る嫉妬であることに気付くことはないだろう。

あっという間に遠ざかって行くシンクの後ろ姿を、アリエッタは諦めることを知らず、ただ必死に追い続けた。


例え六神将の中でも俊敏(と皮肉)さにおいてはピカイチの彼に追いつけたとしても、何をどう言えばいいかなんてわからない。

「…ぅ、シンク〜」

耐え切れず、その顔をぐしゃりと歪ませてべそをかく子供のように、アリエッタは涙を零した。


どうしていいのかもわからずに、けれどどうしてもシンクを追う以外にない。
怒らないでほしい。
アリエッタは無自覚に、だが彼をよく知っている。
怒りっぽい(ていうかすねやすい)がそれはただひねくれ坊主(ツンデ(ぇ)なだけで、ごくまれに優しさを見せてくれる。
(そのシンクのゴクマレな優しさはおおよそアリエッタに向けられてしかない。)

「何泣いてるのさ」

「………ぅぇ、シン…ク?」

半ば落ち武者のよれよれ歩行中だったアリエッタの前に、呆れているようなシンクが現れた。

彼は言えない。
アリエッタが追って来ているのに気付いて以来ずっと、つかず離れずの距離を保ち、彼女の様子を伺っていたことなど!
彼女が泣き出して、思わず引き返して来てしまったことなど!

シンクは自分の愚かさに何とも言えず、わずかに動きがぎこちない。この行動に対してもいささかの羞恥を感じ、無意識に頬に熱が宿る。

だがそんなことなど気付きもせずにアリエッタは、シンクを見とめた途端、涙がぽろぽろと溢れ出して止まらなくなった。

シンクが来てくれただけで、安心して波乱の恋心にもあたたかい風がそよぐ。
(恋の妖精が舞い惑う、さあ風に乗れ少年少女達よ!!
祝杯の時よ来たれり!)
アリエッタは珍しく、迷いの色を見せず、シンクの眸を見つめた。

今日の素顔のシンク。

イオンさまと同じ―――。


でも、



「ぁ、の…シ、ンク………ア、アリエッタね、………シンクが…」ふるえる涙声。
必死に堪えながら、真っ赤になってシンクを想う。

「シンクが…」



「はぁ?何が言いたいのか、ぜんっぜんわからないんだけど」















「ほらつっ立ってないで行くよ」
美少年シンクはついと踵を返し歩き出した。
突然緊張の糸を切られて大いに頭から煙を出し、ショートしてしまったアリエッタはふらぁっと歩きつられる。

けどすぐに彼女は我に返った。
何故かというと、シンクと手を繋いでいることに気付いたからだ。
アリエッタは頬を火照らせ、高鳴る胸と同じくらい軽快な足音を立ててシンクの横に並んでみる。
と、驚いたことに彼もまた顔が微弱ながらに火照っている。

「シンク…暑い、ですか?」

「黙って歩きなよ!一応ヴァンに呼ばれてるんだからね」

目を伏せるようにして顔を背けるシンク、すっかり忘れていた(哀れなヴァン!)用事で照れ隠しにもならないごまかしをする。

何がなんだか。
だがアリエッタは先程の緊張も忘れ、ただ嬉しそうにはにかんで繋いだ手を握り返した。



fin

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ