□恋する季節
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探していた当の彼は、木の上に居た。ノーマはにんまりとした顔を隠しもせずに、軽やかな足どりで木の下へと近づいた。


「みーっけ」

























細身に、変てこな模様や飾りの多い黄色い服を着た少女は、大きな木に寄り掛かった。

「どうしてここが」

木の上から聞こえた少年の声はどこか間が抜けていて、彼らしくなかった。
漆黒の髪を束ねたジェイ、今日の彼はやけに無防備に感じられた。

「そりゃさ〜あたしとジェージェーの仲だしぃ?」

「………どんなですか」

かと思えば、いつもの彼らしく煩わし気に呟く。

「ね!そっち行ってい??」

「は…」

少し驚いたように身を動かしたジェイは、確認を取るよりも早く行動を開始したノーマに呆れ果てた。
よっと声を漏らしながら木によじ登って、ジェイの居る太い幹の隣の、同じく太めの幹ににはい上がった。

「うっわは〜!!ココ気持ちいーねっ」

植物特有の心地良い香や雰囲気、生き生きとした若葉から射す優しい光りは、誰の心にも安穏を告げるような素晴らしいものだった。
殊に彼女のリアクションの大きさは仲間達に知れ渡っている通り快活なもので、感嘆の声は人一倍感動が表に出ている。

「あの、僕仮眠を取ろうと思っていたんですが…」

「隣で座ってちゃだめー?」

狭くなった自分の特等席で、彼は深い溜息を吐いた。

「なにそれ!」

しつれーねッ!とノーマは口を尖らせたが、失礼なのはまさしくこのおしゃまな娘である。

「邪魔なんかしないからさぁ〜!!」

「…なら今すぐ黙って下さい」

冷たくあしらうように。
でも彼にしては珍しくすんなりと認めてくれた。
きょとんとして、それからこっそり微笑む。

顔を俯かせて眠りにつくジェイの隣で、ぽかぽかとした心地良い陽気に身をゆだねる。

(わ、なんか)


遺跡船という変わった陸地に多大な興味と、心の奥底に抱える野望を胸に、足を踏み入れてからこっち、(たまたまつるむようになった、と言っても語弊はない)仲間達と世界の存亡を掛けた戦いに身を投じてしまった。

自分はこれでも花の16歳の女の子、トレジャーハンターで爪術士と言えどたかが小娘、まさか戦争に巻き込まれた上には民族間の因縁と憎悪による世界の窮地。

(安心する…)

最初はどう感じ取ればいいのかもわからなかった。
けれどきっとこれは安穏。

頬がゆるんだ。

(懐かしい感じ)


たかが小娘、されど小娘。

そよぐ風に髪を揺られることが気持ち良く思える、隣の少年を見つめてみてひとりごちた。

「さすがジェージェー」

心が満たされて、優しい気持ちになって、自然と笑みが零れた。


しばらく少年を見つめていたのだが、思い付いたように身を乗り出す。

「ジェージェー?」

顔を近づけて囁いてみる。
けれど意外なほどよく眠った少年はぴくりとも反応を示さない。

「………へっへーん」



ふわり、と。
まぶたにキスを落とす。

春風に蝶が舞うように



「………っ」

思った以上に恥ずかしくてノーマは赤面した。
ただの悪戯のつもりが、不覚にもシチュエーションに負けて胸が熱い。

慌てて木から滑り降りて野を駆け出す。


(走り出した恋心もいっしょに)





背後から聴こえた優しい鈴の音に、おかしいくらいに胸を焼いて。




  -fin

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