□Color
1ページ/2ページ




「アニス」

真っ白な僕に
色をくれてありがとう

「アニス、アニス」

僕の大好きなひと


















ピンクの、

ううんアニスは栗毛色。


頬を緩め、床に寝そべり落書きをしていたのは、小さな男の子。

隣で同じ様に寝転がっていたアニスも、目が合うと笑いかけてくれる。
慈しむように彼の髪を撫で、もてあそんでいた。

「にひひ…、それあたし?」

男の子のどうにもめちゃくちゃな落書きに、少女は苦笑いを漏らす。

「うん!」

無邪気な笑みはまるで天使のように汚れが無かった。
かつて見た哀しみを帯びたそれとは全く違う。
その無邪気さが、アニスの肩を震わせる。
(何か恐ろしい怪物を前にしたかのように)


―――コンコンッ。


「アニスちゃん?マルクトの軍の方が訪ねていらしたわよ」

アニスの部屋へ伝言にやって来たのは、アニスの母であった。

「ママ、わかった!すぐ行くって伝えといてっ」

少女はぱっと身を起こし、男の子を振り返る。

「ごめん!…お仕事、済むまで待てるよね?」

「アニス…」

しょんぼりとしてしまった男の子を気遣うように、アニスは彼の前髪をくしゃくしゃと書き上げる。

「ね?」

申し訳なさ気に笑う少女は、一瞬曇りかけた心を振り払うように立ち上がる。

「…アニス、アニス」

手をのばす。


でもだめ。





僕に色をくれたアニス

いつから僕は、
世界にいたのかわからない

でも
僕が僕になったのは
アニスが僕に色をくれた日


アニスがたくさん、
たくさんの色をくれた


大好き






アニスを困らせちゃう。

「だめだよ…」

「うん、わかったアニス」

男の子は何とか我慢を覚えたけれど、少女はますます辛そうな顔になった。
無理に笑おうとしてる。

しかしすぐにほっとしたような表情に並んで、男の子に優しい笑みを浮かべたアニス。

「偉い、偉い」

それから部屋を後にする。
涙で霞むように聞こえなかった小さな声を残して。


「フローリアン」






大好きなアニス

早く帰って来てね

そしてまた色を教えて

僕のすべての色








行ってらっしゃい、

大好きなアニス




-fin
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ