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□ぬくもりを抱きしめて
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ぬくもりを抱きしめて
雪の街で何度も
あなたがくしゃみをする。
そうね、この街はとても寒いもの…とても。
でもわたしは平気よ、あなたが隣に居てくれるから。
「あーざびッ!」
ガチガチと身体を震わせるあなたはなんだかかわいらしくて可笑しくなった。
小さく笑ったつもりなのにあなたはすぐに気がついて不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「仕方ないわスパーダ君、早く宿に戻って暖炉に当たりましょう」
「つッたってさ〜、オッサンの注文が細か過ぎてまだ半分も買い足せてねーぜ?」
リカルドから預かったお使いもの用紙をピラピラとさせながら、そこに列挙されたグミやボトルと言ったアイテムから始まり、武具やその手入れのための細かな雑貨品の文字に「オェェ」と唸るように歎いた。
「ほらほら、文句ばっかり言ってると終わるのがもっと遅くなるよ?」
「ゔぃ〜…」
うなだれるスパーダ君の手を何気なく引いて歩いた。
思ったよりあたたかくてびっくりしたけど、気付かないふりをしてそのまま先を急いだ。
「おィおいアンジュ、手ェすっげー冷てーじゃん!!」
「え?あぁ…大丈夫よ!わたしはいつもこうなの」
心配をかけてしまったことに気付いて慌てて応える。
思わず手を放してしまって、気まずくなってしまう。でもあなたはそんなことおかまいなしにわたしにずいと近寄る。
「アンタ、俺よりずっと寒いンじゃね?耳が真っ赤だ」
「わたしは大丈夫よ、それより急ぎましょう、雪が降ってきたわ」
緊張しつつも、このまま気にせずにいてくれれば余計な時間もかからないと、平静を装うつもりでやや素っ気なくあしらう。
スパーダ君は何か言いかけたところを途中でやめ、渋るような顔をする。
わたしはお得意の澄ました微笑みを浮かべて歩くよう促す。
内心ではよくわからない鼓動の早さに動揺しつつも、あなたが後から着いて来てくれて落ち着き始めた。
でも背後であなたが「お」と何かに弾かれたように声をあげた。
「なぁな、アンジュ!」
そうして何か悪巧みをした笑みを浮かべ、せっつくように名前を呼ぶ。
どきりとはしたが、持ち前の冷静さでどうにか普通な反応を返す。
「ハグしたらあったけーって、思わねェ?」
さっきまでとは大違い、お陽さまみたいに笑ってみせるんだから。
だけど…言ってることは下心有り、どうしようもない性分ね。
ため息ついてそっぽ向くと、懲りずに後ろをついてきた。
「なぁアンジュ、俺様だって寒いさ〜ハグしよーぜ〜」
街のど真ん中でそんなこと言うことないのに、絶対にハグなんてしてあげないわ!第一相手はいつもエルマーナなのにどうしてあなたなの、と頭で混乱するように叫んでいた。
そう、わたしはひどく混乱していた。
恥ずかしくて足早に彼から離れようとした。
ところがどうにも足がすくむように動けなくなった。
肌寒さに腕で自身を抱えるようにしながら佇んでいれば、あなたがわたしに追い付くなんていとも簡単だった。
「だったら俺から…だッ!」
ふざけたような笑い声混じりに豪快な抱擁。
背中からぎゅうっと抱き着かれて、あなたの熱。
どうしようもなくなった。
いつからだったか
こんな風に抱きしめられる
何度も何度も
心を焼かれるように
「………あったけ」
安心したみたいな声。
あなたの手がわたしを離さない。
じわじわぬくもりが伝わってきて、こうされることに何の嫌悪も感じない。
それどころか、このままずっと、スパーダ君の優しい心に身体を埋めてしまえたらとさえ願ってしまった。
「……そうね」
あたたかい
わたしはこんなにも
あなたのぬくもりが愛しい
舞い落ちる雪の中で、
わたしの心はどれだけ
どれだけあたたかかったか
あなたにならわかる?
-fin