□Hollow hearted
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少女はたった独り、

少女は独りで立ち尽くしていた








Hollow hearted






「アニス?」

そっとした声で尋ねた。
けれどその少女はぴくりとも動かなくて、もう一度、今度は近くに歩み寄りながら声をかける。

「どうかしましたか、アニス」

イオンはなるべく、お馴染みの穏やかな笑顔を彼女に向ける。
からりと晴れた空を、虚ろいだ生気のない瞳で見つめていた少女は、相変わらず無反応だった。

あぁ、この少女は

と、イオンはぼう、とする感覚の中で、しかしはっきりと感づいた。

「何か迷っているんですね」

まるで、空気を凍らせるような、静かな声が少女の意識に刺さるように響く。
虚ろぐ瞳の奥がゆらゆらと震え上がり、はっとこちらを振り返る。
大きな目を見開かせて、一瞬息を詰まらせる。

「な、…に言ってんですか?」

なんて苦しそうな声で。

「あは、ははっ、イオン様こそどうしたんですか?」

なんて苦しそうな声で。

「そう、ならいいんです」

君がわらうものだから

僕もわらいをかえしてあげる


イオンは彼女の青ざめた唇を一瞥し、目を細めて微笑んだ。

「…あ、はは」

いつになく余裕のないアニスには、彼の微笑みの僅かな愚弄を感じ取りはしなかった。

「疲れているんですね」

すっと距離を縮める。
身を竦めた少女の額を優しく撫でる。

「何かあれば言ってください」

日に焼けない白い額に、そっとキスを落とした。

そうしてイオンはまた、お馴染みの優しい穏やかな笑顔を彼女に向けた。

「僕にも、貴方のことを護らせてください」









-fin

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