□水色片思い
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託宣―――

望海の祭壇へ。








混乱するわたし。


絶望の結果
空回りする作り笑顔






羞恥の傷跡。

信じられないくらい、

ひどくひどく。

ひどくひどく。



目眩を覚えて地に平伏す様に。






















「ありがとうございました」

何を急に言っているのだろう、と自身に向けてぼんやりとした疑問が沸き立つ。
シャーリィは隣を歩く、美しい顔を無表情に整えた青年に笑顔を向けた。

「何の話だ」

メルネスを護ることを第一に、そしてそれこそを生きる理由にでもしてしまったかのようなこの青年は、美しいその容貌を寸分も歪める事なく、低い声で尋ねる。

「あの時の戦いで、なんだかんだ言って、ワルターさんはみんなを助けてくれたから」

ヴァーツラフ軍との戦争で、彼が心底不服そうに、だがセネル達と協力していたことを思い出した。
そういえばあの時はお姉ちゃんのことでいっぱいで、他に構う余裕がなかった。

だからお礼を言ってみた。
少女の、どこか力無い声が、小さくか細く、小鳥のさえずりのように。

「メルネスを護ったまでだ」

が、即答はいつものようにつんと返されてしまった。
だからだろうか。
突然目尻から雫がこぼれ落ちたのは。
(そんなはずはなくて、理由もわかっていて。)


「ふふ、言うの遅くなっちゃ…いました、ょね…」

ごまかそうとしたのに完全に涙声になってしまう。
わけのわからない女!
突拍子のない話をした途端、今度は泣き出すなんて。












あぁ

どうしても叶わない


あなたを
好きでいたいのに。

あなたの背中が
さようならを告げるように。
















「…、何故泣く」

相変わらずの冷たい声で彼は言った。
だが明らかにそれは困惑を帯びた苦しげな声音。

「…気にしないでください」

なんてよそよそしい言葉。

ワルターさんはため息を吐いてそっと離れて行った。


傷つけてしまったのかな、と漠然と感じることしか出来なかった。

むしろ、去り際の後姿が想い人と重なって心がきしむ音をたてるようにして痛んだ。

なんて自分勝手なの。

だけど苦しくてたまらなくて、いますぐこの現実から逃げ出したくてたまらなかった。




「シャーリィ!」

遠くからフェニモールの声がした。
それだけでふっと心が軽くなって、すがるように彼女の姿を捜した。
あんまり辛くておかしくなってしまいそうだった。

フェニモールが居てくれてよかった。

「もう、あんたったらね…もっとしっかりするって言ってたじゃないのよ!」

彼女は傍まで真っ直ぐに走ってきて、わたしを軽く抱きしめるようにしてくれた。
きつい口調ではあったが、心配をかけてしまったことがうかがえた。

「涙を拭きなさい、今日はちゃんと頑張るって約束でしょう?」

お兄ちゃんに想いを伝えることさえ許されなかったあの夜、フェニモールはわたしを励ましてくれた。
前を向きなさい、って。

「ごめんねフェニモール、そうだったわよね、今日は大切な日だもの」

フェニモールの存在は予想以上にわたしを勇気付けた。
少なくとも、笑うことが出来るくらいに。
今はそれで十分だ。

「ほんとだわ、びっくりしたんだから!その…ワルターさんから話しかけてきたと思えばこれなんだから」

「え?」

「……頼まれちゃったの、びっくり」

顔を上げてみると、彼女はほの赤い頬を隠すように前髪を整えていた。

ワルターさんが、フェニモールを頼って行った図を想像して少し可笑しくなって笑ってしまった。
いったいワルターは、彼の途方に暮れたようにへの字に曲がった口で、なんと頼み込んだのだろう。

彼は寡黙だが戦争をきっかけにフェニモールとほんの少し打ち解けたのだろうか。きっとほんの少しだけれど、嬉しい。
だって彼の話をするフェニモールが幸せそうに見えたのだから。

ワルターさんも、もっと肩の荷を降ろしてくれればよいのに。
そしたらお兄ちゃんのことも…。









――お兄ちゃん。












「とにかくしっかりなさい、わたしだってワルターさんだってあんたが泣いたりなんかすると心配なのよ!」

ありがとうフェニモール。
わたし、あなたと友達になれて
いま、とても幸せ。

なのにごめんね

「ふふ、ワルターさんはどうかしら…」


言葉とつじつまの合わない行動。
わたしは無意識のうちにフェニモールに抱きついていた。

もうあなたしかいないの。


「――どうしたのよ」




でもね


やっぱり耐えられないの。




わたし

自分が大嫌いになっちゃった。


お兄ちゃんがお姉ちゃんのことが好きなのも知ってて

倒れるお姉ちゃんを必死で名を呼んで助けようとしたことも見てて

お姉ちゃんがずっと生きていたのにそれに気付かずにいたことを悔いていたことも感じ取りながらも




わたしは

自分のことだけ考えて

気持ちを吐き出してしまえばそれでいいの?



『ステラの傍に居てやらないと』















わたし



なんて浅ましいの。






 
fin
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