□あなたに流れ星
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「スパーダ君はルカ君が大好きね」

水色の綺麗な髪を、頭の高い位置でカールさせて束ねた少女が呟いた。




本来彼女は成人した立派な一人の女性なのだが、かわいらしい顔立ちのせいか、少女にも見える。








「え」

「は」

その場に居たのは当のスパーダに、アンジュ、そして彼女にしがみついていたエルマーナだった。
「アンジュ姉ちゃん、急に何言いだすん?」
「エルは黙ってていいの」
エルマーナがぱちくりと大きな目を瞬かせて問うと、アンジュは少しばかりむっとしながらエルを思いきり抱きしめてスパーダに向き直った。
いつもは落ち着き払った彼女なのだが、少し自棄になっている風でもある。
「スパーダ君?」
「なっ何だよ」
突然に議題に挙げられた当のスパーダ・ベルフォルマは、アンジュのハグを羨ましげに、そしてやましげな目で彼女の胸部を見ていたために、慌てていずまいを正す。
すっかり彼のスケベさに慣れたのか、アンジュはそれ以上のたいした反応は見せずに歩き始めた。
彼女達はちょうど火山の町ガラムを出ようと荷造りのために早々と店で買い出しを済ませたところだった。


アンジュは自分が何を言いたかったのかがわからずにいた。
わけのわからない自分の行動を恥ずかしく感じることさえ、何故だかわからない。

寝込んでいたルカが目覚めたとき、スパーダが心の底から喜ぶ姿を見て以来。
いや、ルカが倒れてからの気の狂ったような心配様を目の当たりにしてから…?
アンジュの心はルカを気遣う一方で、スパーダへの晴れない謎めいた気持ちに支配されていた。

スパーダがルカを好いているのは明白で、宿命の様であるがそれは彼らの心の自由だ。
でもどうして自分はあの時、スパーダの横顔を、友を心から慕う少年のような青年の横顔と見なせずにいたのだろう。
兄弟の様だと、ほほえましく思えなかったのだろう。


「おいっ、アンジュ!」
気付けばスパーダに揺さぶられていた。
「しっかりしろよ、どうしたんだ」
「…何でもないの」
今は彼と向き合うのはよそう、そう思ったアンジュは彼から目を逸らす。
「行こう、エル」
「はぁ?何だそりゃ」
冷ややかな態度だと知りつつも、エルの手を取って彼と距離を置く。
アンジュの意外にも図太い神経に、スパーダの偏屈は何の気負いにもならなかった。
「………ええんか姉ちゃん?」
心配そうな彼女の言い分はこうだ。
「兄ちゃんと話せぇへんの?」
「…」
「姉ちゃん、兄ちゃんのことずっと見よるし、なんか言いたいことあんねやろ?」
アンジュは相変わらずのエルの賢さに感心した。
「ウチわかるで、姉ちゃんのそれは恋っちゅーやつや!」
生まれて始めて何もないところで転ぶかと思った。
思わず否定しかけたが、何も言えなくなる。
先程スパーダと話しているとき恥ずかしかったのは、まるで自分がルカに嫉妬しているかのようで嫌だったからか。


強い風が吹いて
髪が揺れた。

「…わたし」

後ろを振り返って置いてけぼりを食らわされていたスパーダと目があう。
まだ幼さを残した青年の顔は、いじけていたものから少しだけ照れたようにこちらをしぶしぶと伺うものに変わる。
「わけわかんねー…」
スパーダは困り果てたコメントをため息混じりに発して、アンジュの側まで歩いてくる。
アンジュは何も言えずにただ瞳を震わせて立ち尽くした。
そして微かな声で、誰に問うでもなく、ただ囁いた。
「わたしが……」



わたしがあなたを







すき?



















fin

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