□あなたに歌声を
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好きよ




悲しまなくていいの


恐がらなくていいの


笑ったっていいの


泣いたっていいの





生きていていいの


みんなあなたが好き





ううん、

わたしがそうなの















「何してんだ?」

彼の表情を改めて見直して、ティアは不意に現実を思い知った。

なんとなくぽやっとした頬、不思議なものに向ける目は不審というより好奇心の色が濃い。
それに行動も、考えるより先に手が出るばかり。

つまりは、子供っぽい。

「…なっ、なんだよ」

見つめていると、少し照れたようにむくれた。

そっぽ向いたときに揺れた髪の毛が、また子供っぽい印象を与える。




苦しくなる


辛くなる


ちがう


痛みはあなたのものなのに





「ティア?」

彼女にはわかる、彼の震える心の鼓動の音が。

彼は怯えて誰かに助けを求めていながらもそれを必死に拒んでいるのだから。

だから、
震え軋む心がボロボロになって。
どんどん擦り減って。
限界を越えて。


(消えてしまうんじゃないか)



「どうしたんだよ」


わたしはできない

あなたを救うことも

あなたを見捨てることも



それなのに

「なんか拾い食いでもしたのか?」

それなのに

それなのに

それなのに

そうだからこそ?


「ふはっ、ティアに限ってそれはないか」

彼は柔らかい笑みを零す。彼女からは涙が零れた。


もうただ手をとることしかできずに。

ふたりはぎゅっと手を繋いで寄り添う。


「…ティア」


繋いだ手が恥ずかしくて
そわそわするあなたは

いまはまだ

ここにいるから



(ずっとここにいて)


「………歌、聴きたい」

やさしいあなたに


歌をうたうことだけが

わたしにできること




















そうだと云うのなら、

ずっとうたい続けよう




 -fin

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