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□チョコのお返し
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「ロ〜イドきゅん!」
ぞわっ!
若き剣士の背筋が凍り付くようなふざけた声。
隣に居たけん玉少年もあまりの奇怪(キモ)さに真剣な眼差しで、テセアラの(アホ)神子を凝視せざるを得なかった。
「変な呼び方すんなっ!」
「でひゃひゃ」
「ほんっと変な奴…」
全身を投じて突っ込みを入れるロイドはまさに[必死の主人公]である。
相変わらずの変な笑い声で、(アホ)神子ゼロスは悪態をつくジーニアスの頭をぐりぐりと撫でた。
ジーニアスは心底嫌そうに唸ってその手を払おうと頭を振り回したりしている。
「さっきコレットちゃんが探してたぜ〜」
「お、そうか、何だろ?」
コレットと聞けば単純に表情が明るくなるロイド。
「俺様も手伝おうか〜?って聞いたら断わられてさ、なんか訳あり?」
話し中もゼロスとジーニアスの攻防は続いていた。
「ん〜…?」
「ロイド君たらコレットちゃんと喧嘩なんて」
そしてジーニアスは鮮やかなる頭突きを繰り出す。
「するわけないだろっ!」
「よなぁって痛ェーながきんちょ!!!」
「まっさかロイド、まだチョコ渡してないとか?」
ゼロスの難から逃れたジーニアスが、嬉しそうな笑顔とともに、さわやかに言った。
「チョコ?」
………………。
「ロイド君、俺様お前の馬鹿さに涙出そうだわ」
「僕も、コレットが可哀そうになるや」
「コレットちゃんのこれまでの健気さにも涙が…」
「それでも仲良しの二人が羨ましいくらいだ」
「………〜っ???い、いったい何なんだよ!!」
突然の心締め付けられるような沈黙の後の罵倒に、剣士ロイドは耐え切れず悲痛な叫び声をあげた。
「よろしくてロイド?」
「……知らなかった」
涙目の優しき親友ジーニアスに連れられ、リフィルのありがたいバレンタインデーとホワイトデーにまつわる昔話を教わる。
(難しかったり眠かった所が多くほとんどすっぽ抜けているが)ホワイトデーである今日、自分は[やっちまったぜ☆まぢやっばァーい!]みたいなはちゃめちゃラブリイストーリー的展開に陥っている事は理解できた。
「なぁロイド君さ、今までコレットちゃんにチョコとか貰ってたんしょ、どうしてたのよ…」
「………」
今はただ眉間にシワの寄った主人公が無理して笑い[言い訳も糞もございません]と弁明するコマが[しばらくお待ちください]の合図を告げていた。
すなわち、
穴があったら
入りたい。
「今まではともかく今回は気付いても良かったのではなくて?
ジーニアスがプレセアに渡すからって以前から張り切っていたでしょう?」
「………」
もはや涙を流す寸前のロイド。
[それ以上僕の過ちをえぐらないで下さい。]
「とりあえずさっ僕が作った余りの分あるからっ、渡してきなよ!」
親友は呆れ果てても見捨てずにいてくれた、ロイドは目を閉じて感謝の気持ちを込めて笑った。
「ありがとうジーニアス」
「コレットちゃんに限って怒ることはないだろうし、優しくしてあげな〜」
「そうね、むしろショックでしょうから貴方の誠意に掛かっているわよ」
「おぅ!まかせとけ☆」
仲間達の叱咤激励に押され、いつもの元気なロイドがハヂケて彼等の元を飛び出す。
その軽やかな足取りの美し(キモ)さに、仲間達が若干の[引]を感じていることも知らずに。
そわそわ。
当の神子コレット・ブルーネルは儚くもロイドのお返しを期待してうろちょろしている。
意味もなく歩き回っていたせいで何度も転んだり柱にぶつかったりと、いつも以上に天然を発揮していた。
昔、イセリアの村に居た頃は、彼にチョコを渡しても返ってくる事はなかった。
ジーニアスはお返しを渡しに来てくれて呆れたようにこんな事を言っていた。
「大丈夫だよコレット、ロイドは単にホワイトデーは疎かバレンタインすら解ってないんだから、がっかりしないで」
優しい言葉も、ロイドの分を合わせてと言う豪華なチョコのお返しも、嬉しかったというのに、彼が帰ると独りで泣いてしまった。
がっかりしないはずなくて
「今年も…ダメかな」
イセリアの頃に比べれば、今は密接で暑苦しい集団行動を取っていて、仲間の様子は嫌でも目につく。
気付いてくれたんじゃないかと思って期待していた。期待なんてするんじゃなかったと、後悔に深く沈み込んだ。
目尻が熱くなって、慌てて目をぎゅっと閉じた。
「コレット〜!!!」
すると遠くからロイドが駆けて来ていた。
「…ロイド!?」
一気に涙が零れる代わりに、一滴が頬を滑り落ちた。
泣きたい気持ちを我慢していたら、彼の笑顔で我慢すら吹っ飛ぶくらい心踊った。
「ごめん!!コレット…俺、今までずっとお前の気持ち、無視してたんだな……」
ロイドが頭を下げたのを止める間もなく一気に吐き出された彼の謝罪の言葉。
びっくりして再び涙が零れそうになる。
何も言えなくなる。
嬉しいのに、いっぱいいっぱいで…。
心が満たされる事に慣れていないから?
「………その、これジーニアスが作ったやつなんだけど、お返しに…」
コレットに手渡されたチョコは、朝ジーニアスがプレセアに渡していたものと、確かに同じであった。
「ほんとに悪か…」
ロイドが何か言いかけて止めたのは、コレットがとうとう涙を流してしまったのに気付いたからである。
彼女は初めて貰えた、1番欲しかったロイドからのお返しを大事に抱えて、俯きかげんで泣いてしまった。
「…〜っ、コレット!」
ふわっ。
突然の抱擁、コレットは真っ赤に頬を染めて身じろぎをしたが、すぐに安心したように身体の力を抜いた。
「俺、ホワイトデーとかバレンタインデーとかいまいちわかってないけど、でも…でも、コレットのこと大好きだ……!!!」
ロイドは必死に慰めようとして、焦った気持ちのまま彼女をぎゅうっと抱きしめる。
「わ、わたし、嬉しくて泣いてるの…ロイド……ありがとロイド」
ロイドはぱっと身を離して、心配そうにコレットの涙に濡れた瞳を覗き込んだ。
コレットは幸せそうに微笑んでロイドに寄り添う。
「わたしも、ロイドが大好きだよ!」
ずっと待ってた
あなたの言葉
-fin
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