□君がいちばん...<前編>
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「皮、ですか?」

「えっ!?っと、その…〜」

無表情に近い顔で、軽く首を傾げた少女。
そう、無表情に。
まだ幼さの残る、愛らしい顔立ちには何の感情も表れない。
(なんて不相応な悲劇の傷跡)
曇る心を抱えた少女、プレセアの反応に、真っ赤な顔の少年は肩を落とした。

「わたしはきこりなので皮は持ち合わせてないんです、すみませんジーニアス」

ジーニアスは最後の衝撃で敗北した。
いや、これくらいで諦める彼ではないからこそ、今まで何度も繰り返した言葉。
アルテスタの家で休んでいた旅人達、ジーニアスはプレセアを連れて小川のほとりで腰を下ろしていた。

少年は、沈みがちになりながらもプレセアに笑いかける。

(優しい笑顔を)


「……ジーニアス?」

「プレセアは…可愛いね」

彼は何度目になるかもわからない勇気を出して、言葉にする。
照れた少年の笑みを見つめる少女の瞳がかすかに揺らぐ。
かすかに、かすかに。
どういう風な反応をすればよいのかわからず、プレセアは黙り込む。
少年は俯いてしまった少女に慌てて声をかけようとするが、恥ずかしさのあまりうまく舌が回らなかった。

「プププレセア?っご、め、…めめっ迷惑だっ…た…?」

「………ジーニアス…」

「え?!な、…―――!!」

あわてふためいて騒ぐ少年に、プレセアは力無い声を振り絞った。
ジーニアスははっとして彼女を見つめた。
垂れた桃色の髪の隙間に見える蒼い瞳が、今まで彼が見て来たものの中で最も孤独で、深い不安に満たされていたのだ。

(どうして、プレセア)

思わず倒れそうになるくらいの衝動だった、けれど今にも倒れそうな表情をしているのはプレセアだ。

「あなたのいつも言う可愛いとか美人という言葉の意味が理解できません…ごめんなさい」

早口でそう呟くと、プレセアは立ち上がった。
ジーニアスが引き止めようと口を開いた時には背を向けて歩き出していた。

「…そんなこと」

追い掛けられなかった。
何を言えばいいのかも、
自分が今何を考えているのかさえわからない。
ただ…彼女の闇に沈む蒼い瞳が、脳裏に焼き付いて離れなかった。


(僕は…)


だいすきな君を

傷つけてしまったの?

苦しめて、
闇へと突き落としてしまった?











「初めましてプレセア!」

少女の前に現れた少年。

「………」

頬を真っ赤に染めて語りかけてくる。

「ぼっ僕はジーニアス、よろしくね!」

「…はい」

少年の様子に、ほんの少し反応の色を見せたカラカラに渇いた心。

「……ねっねぇ、プレセア」

この真っ赤な少年は、いったい誰なのだろう。

「………」

渇いた心にキュッ…と蛇口を開く音が響く。

「…ププププレセア!」

少女はふと、照れる少年の瞳をちらりと覗き込む。

「…?」

光の様に輝いた瞳も、笑顔も、なんて眩しい。

「君って可愛いね!」



ああなんて気になるひと。














僕は恋をしてるんだ

はじめてなんだ


だから、
もしかしたら

君をただ傷つけて
苦しめてしまったのかもしれない




ほんとうは

ほんとうにただ君が





笑顔で
居られるように














「プレセア…」
どうして追い掛けられなかったんだろう。
ジーニアスはそう思った瞬間駆け出していた。
プレセアの歩いて行った方へ向かって、小川の砂利道を転びそうになりながらも必死で走った。

「…ああ、プレセア、プレセア……ごめん、ごめんプレセア」

泣いたっておかしくない程悲しく、苦しかった。
彼女を追い掛けられなかった。
声を大きく荒らげて遠くに見える彼女の姿に叫ぶ。

「許してなんて言わないから!…だからプレセア………独りにならないで!!!」

離れた場所に居るプレセアは相変わらず霞むような表情で、不安で堪らなくなった。

「………」

そんな悲しい顔をしないで



「僕を信じて!」



その刹那。
ジーニアスは全く気付かなかった、自分が、背後から迫って来ていた魔物に襲われたなど。
殴り掛かられたその一瞬で意識を手放してしまったのだった。





「…ジーニアス!!!」











to be continued...


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