□君が本命
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君が好きでたまらない

抱きしめずにはいられない

頬を撫でずにはいられない




















「…スパーダ君?」

そんなつもりはなかった。
けど気がつけば、彼女をかたく抱きしめてしまっていた。

「どうしたの、急に」

アンジュはそっと囁いて、少年の胸の中で深い息をつく。
どこか安心したような表情で力を抜いて、スパーダの瞳をじっと見据える。

「大丈夫よ、何でも話して」

彼女がにっこり微笑んでみせるものだから、怯むように首をすくめてしまった。

「…よくわかんねんだ」

「何が?」

「俺、たぶんお前が好きなんだ」

流石のアンジュも頬を赤らめて喉を詰まらせた。

そこは輝く雪の銀世界テノスの、スパーダが借りている宿の部屋の中。
彼はどうしようもない、嫉妬にも似た感情の勢いに任せ、アンジュを連れてきてしまった。








少年は走った

立ち止まった

そしてまた走った



チョコを抱えて

雪の上を

ざくざく、ざくざく


寒くて頬が真っ赤になる


がらにもなく緊張して

どきどき、どきどき




けど

街角で目にした嫌な光景



「おはようございます、アンジュ」

瞳が震えた

「あら、おはようアルベール」

無意識にあのいけすかない青年を睨みつける

「っそそその、先月のお返しを…」

が、何も考えられない

「…あぁ、チョコレートのことかしら?」

頭が真っ白になって

「はい!あのどうぞ、受け取ってください…」

姿勢を保ち直すのがやっとで

「ありがとうアルベール、美味しそうだわ!」

鼓動が早くなる

「喜んでもらえて嬉しいよ、以前君がワインを好むと聞いて、テノス名産の酒にも合いそうな特注品を選んで来たんだよ」

焦点が合っていない

「ほんとう?素敵、よく気が利くのね」

胸が痛い、痛い

「え、ぁ、もっもちろん君のためならなんで…」


もう黙っていられなかった



「どけこのヤサ男!!」

アンジュが嫌いそうな乱暴な態度を思いっ切り表に出して

「ぅわあ!!!なっなんだ君は…!」

この青年の真正面に立って、真正面から睨んで

「スパーダ君?!」

よく解らない感情に震えあがった手でアンジュの手首を掴む

「俺の女に近づくんじゃねぇ!!!」

わけのわからないことを叫んだ

「何言ってるのよ!」



彼女がテンポ良く叫んだ言葉を最後に、アルベールは置き去りとされた。
スパーダはぐいぐいとアンジュを引っ張って、宿へ連れ込んだ。

というのがそもそものはじまりだった。






そして今に至るは、勢いに任せた抱擁、後に告白。
アンジュは頬を染めて、困ったように眉を寄せていた。

「と、とにかく…そろそろ離してくれる?」

「あ、ごめん…手首も」

ゆっくりと身体を離した。
(なんて名残惜しいぬくもり)
できるだけ優しく、少し赤くなってしまった手首を撫でる。
今のスパーダはやけに不器用に見え。

「マジで…俺、ごめん……」

「もう、これくらい大丈夫だから謝らないで!」

どんどん弱気になる少年に、アンジュは軽い溜息を漏らす。
(それは、愛おしむような吐息で)

「ねぇスパーダ君、急にキレたりするなんて、具体的に何があったのか教えて?」

「………恥ずかしくて言えるかよ」

「あら!それはないんじゃないの?」

ひねくれるようにボソりと呟いた少年に、アンジュが年上らしさを強調させるような態度を見せた。

「人のことを『俺の女』呼ばわりした覚悟、見せてくれるわね?」

余裕たっぷりに笑う彼女が、ほんの少しだけ頬を染めて機嫌が良い訳が、スパーダには理解できなかった。
しばらく彼女の丸くした目と目を合わせて、退けを感じてどことなく縮こまる。そして小さな大人しい声で呟き始める。


「女と遊ぶなんてこと無かったわけじゃねーんだ…」

アンジュは瞳を瞬かせたが、落ち着いた声でさとす様に言った。

「…感心はしないけど、昔のことはとやかく言わないわ、それで?」

「でも、本気で人を…好きになるっていうのが、…初めてなのかもしれねー」

自信が持てなかった。
スパーダは話している間、アンジュと目が合わせられなかった。

「バレンタインにチョコ貰えた時、なんかすっげー嬉しくて、日が経てば経つほど嬉しくて、気になって」

アンジュの手が自分の手に触れてびっくりする。
スパーダの片手は、そっと指を重ねあった彼女の両手に包まれてしまった。
余計に視線を上げられずに、まるで尋問を受けるような気分で一気に吐き捨てた。

「張り切って今日来てみたらあの気に食わねー野郎が…!」

「嫉妬したってこと?」

ストレートな質問が恥ずかしく、思わず否定したくなって彼女の顔を見てしまった。
優しくはにかんだアンジュは、スパーダの頬に手を当てた。

「………たぶん」

観念してそう呟いて、逆に楽になった。
彼女も機嫌よく微笑んで「はい、いい子ね」などとからかう。

「わたしのこと、好きなのね」

「おぅ、……正直に言ったぜ俺は」

好き。
わざわざ言葉にする彼女に向かい、少し試すようににやりと笑う。

「……ご褒美が欲しいのね?」

アンジュが呆れたように微笑んでいた。
(ほんのり染まった頬が、
嬉しそうな表情をひきたてて)

そっと目を伏せて、彼女はスパーダの頬にキスする。

まさか本当にご褒美が貰えるとは思わなかった。
スパーダは驚いてから問いかける。

「一応聞くけど、アンジュって…」

彼女はきょとんとして、可笑しそうに小さく笑う。

「スパーダ君ったら馬鹿ね、…えぇそうよ、あなたが本命」

それからまた瞳を閉じる。
今度はゆっくり、スパーダを見つめながら。

(キスしてね、と)


「マジかよ」











君が好きでたまらない

抱きしめずにはいられない

頬を撫でずにはいられない




-fin
















●おまけ



「スパーダ君」

「んぁ?」

「そろそろ離してくれる?」

「え!まだハグとキスしかしてねーぜ?!」

「そう、ハグとキスまでに決まってるじゃない」

「何でだよッ!!」

「それはこのサイトがR指定取り扱ってないからよ、そんな急展開はありえないわ」

「狽だとォ?!!」

「それにわたしだって捕まっちゃうもの、スパーダ君は未成年だから」

「意味わかんねー!何だこの見えねー壁!!(憤」

「さ、ところでスパーダ君、チョコをちょうだい」

「…そこにあるだろ!どーせあの野郎みてーに『素敵〜☆』でも何でもねーよ!」

「そうね(サラリ)、でもスパーダ君にしては高価なものみたい、ありがとう」

「………」






☆オワリ

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