早朝、朝霧の立ち込める中、長宗我部軍の軍船は厳島に上陸した。 厳島は大三島と並び、瀬戸内の島々や諸国の絶大な信仰を集める聖地であると同時に、軍事や海運の要所でもある。 ここを抑えることは、すなわち、毛利氏の本拠である安芸本国の喉元を抑えることと同義なのだ。 「案外と手薄だな」 別働隊が城砦を押さえたとの知らせを聞いて、元親は思わず、つぶやいた。 「お膝元ってことで、油断してたんじゃないですかい?」 「だと、いいんだがなぁ」 潮風と波の音以外、静謐とした神殿を見渡しながら、元親は再び、物憂げにつぶやいた。 毛利元就の戦は、飛び込んできた獲物を幾重もの策で包囲し、決して逃がさず、逃れようとすれば疲弊させて討ち取る。そんな印象がある。 もとより、自領を侵す者は徹底的に叩き潰す毛利のこと、厳島を侵攻する存在を想定していないはずがないのだが。 そこへ、斥候に出した部隊が戻ってきた。その様子が尋常ではなく落ち着きを失っている。 「アニキ、大変です!」 「いってぇ、どうした」 「毛利元就が、います…!」 陣中に小さなどよめきが起きた。 「確かに見たのか」 「へい。沖合いから小舟に乗り換えて、拝殿に向かうところを、確かに…!」 にわかには信じがたかったが、極秘の参拝という可能性も考えられる。 「疑えばキリがねえ」 元親は首を振り、下知を待つ部下たちへ向き直った。 「社を押さえる。行くぜ、野郎共!」 「承知しましたぜ、アニキ!」 鬨の声を上げて、七つ片喰の軍艦が社殿へ押し寄せた。 |