朝靄の晴れかけた早朝の稲葉山。 すでに警護の兵三百あまりが斬られたという報告を受けて、半兵衛は追討の中止を命じた。 「僕は君という人間の本質を見誤ったようだ」 そう言えば、濃厚な血潮の臭いに染まった眼前の男は、狂ったように笑い出した。 「私もですよ。貴方は私に近い方だと思ったのですが…とんだ見立て違いでした」 一緒にされるなんて真っ平だ、と心中で呟いた。 破壊の先に何も求めず、欲するものが滅びればもはや欲しない。己の身を破滅させることすら快楽であるような、そんな人間とは断じて違うのだ。 「君はもはや常軌を逸している。制御できない人間は、僕には不要だ」 忌まわしい哄笑が去っていくのを聞きながら、半兵衛は深々と息をついた きっと彼は、己の同胞を求めてさ迷い歩くのだろう。 この世にあるはずもない、己の似姿。 ふと、冷たく整った氷の面を思い出したのは、なぜか。 自分でも解らなかった。 |