さざなみの音がする。 勝鬨も歓声も、戦の喧騒は何もかも、まるで海一つ隔てた島の出来事のようだった。 ふと、目の前に倒れている男に意識を戻す。 (さて、こやつ、どうしてくれよう…) どうにも討ち取る気分にはならない。 かといって、放っておけば夕にも至らず死ぬだろう。 どうやら自分は、何としてもこの男を死なせたくないらしい。 そう気付いて、元就はほんとうに心から戸惑った。 もっとも、困惑しているのは胸の中だけで、顔は相変わらず、日の光にも冷たく凍りついているだけなのだった。 ごとり、と、何かが社殿へぶつかるような、鈍い衝撃を感じた。 見れば、欄干の下から、ぼさぼさにそそけた髷の、一目で海賊とわかる男が二人、血相を変えて駆け寄ってきた。 「アニキ!」 日に焼けた剽悍な顔をくしゃくしゃにゆがめて、男泣きに泣いたのも束の間。 目の前に仇敵の姿を捉えた一人が、おめきながら斬りかかってきた。 苦もなく粗末な刀を弾き、一刀のもとに首を刎ねる。 返す刀で、もう一人も斬り伏せた。 いつの間にか、欄干の向こうにもう一人、眼前の鬼とよく似た男が立っている。 兄弟でもあろうか。静かに怒りを燃やしながら、こちらを見ていた。 そして、背後の扉もすでに開かれ、息子や家臣たちが固唾を呑んで、こちらを見守っている。 すべては終わったのだ。 「首と胴、拾うて疾く去ね」 くるりと背を向けた元就に、身構えていた親貞も、そして毛利軍も、驚きざわめいた。 「神域を犯す者は、すべて日輪の加護のもと、焼き尽くすまで。――長宗我部に左様、教えよ」 その言葉の意味を察し、親貞は急いで兄へ駆け寄った。 重傷だが、確かに息はある。 なぜ、殺さなかったのか。 理由を聞きそびれていたことを親貞が思い出したときには、すでに彼や元親を収容した富嶽が、ゆっくりと動き始めていた。 |