「我が毛利治部少輔元就よ」 涼やかな名乗りにて会談は始まった。 素襖の紋は一文字三星。 すっと背を伸ばし端座する姿は、強靭な意思そのもの、何者をも寄せ付けぬ冷たい矜持そのものであった。 「修辞を重ねても益はない。腹蔵なく意を述べ合いたいが、如何か」 そう、何のはばかりもなく言い切る胆力に、毛利の自信と実力の程を見る思いがした。 信玄が特にうべなうのは、端正な面差しの一点。 限りなく澄みわたり、理知の光を湛えながら、わずかな情も見えぬ眼差しであった。 凍てついた輝きは、氷柱か秋霜か。 (氷の面とは言うたものよ) その感慨に気付いたかのように、氷の眼差しがひたと虎を見据えた。 背中に冷たい感覚が走る。 ぴりぴりと痺れるような、その感覚は不思議とどこか心地よい。 ――戦の心地か。 そう、気付いたとき、信玄は愉快な気分になった。 「お主、一局、付き合わぬか」 形のよい眉が微かに動いた。 次いで、薄い小さな唇が、くっとつり上がる。 「よかろう」 自信に満ちた微笑。 戦の最中、味方が見れば、常の恐怖も忘れて戦勝の確信に奮い立つであろう、誇り高い笑みだった。 |