「元就様!敵襲、敵襲にござりまするっ!」 拝殿へ駆け込んできた伝令を、参拝を終えた毛利元就は一瞥した。 「慌てるでない。皆の者、防衛線を展開せよ」 静かに命じ、得物である輪刀を手にした。 「海賊が、この厳島を蹂躙するとは…」 兜の目庇の下から、見る者を畏怖させる鋭い眼光が覗いた。 その端正な、しかし生命を感じさせぬ冷厳な容貌を、人は評する――氷の面、と。 拝殿の扉を開けたとき、回廊には整然と兵卒が居並んでいた。 すべてを睥睨する眼差しは、既に彼らへ役割を振り分けている。勝負は始まっているのだ。 「海賊風情と水軍の質の違い、見せてやろう…」 厳島という盤上に勝利を打つべく、采配が動き始める。 「死しても時間を稼げ」 あまりに酷な命令を平然と課せられた小隊長は、絶望的な眼差しで、雲上の存在ともいうべき主君を見上げた。 生まれて初めて拝したこの国の支配者は、この上もなく神秘的な美貌と、無限の非情さを持っているのだと、彼は知った。 「行け」 朝霧に浮かび上がる白皙。 凍れる眼差しは、人ではなく、この世の生命の何をも映してはいないのかもしれない。 「そなたらの死の先に、勝利あり」 |