結局、どこまでも議論は平坦な道をたどった。 曲がりなりにも天下を臨む意志ある者と、毛利元就とでは、必然的にそうなるのだろう。 だが、彼の思想の一端をつかんだ会話は、無駄ではないと半兵衛は思っている。 何から何まで相容れない人物だが、そうであるからこそ渡り合う面白さもある。 惜しむらくは、それを楽しいと思えるほどの余裕が、半兵衛自身に残されていないことだ。 ――そういえば、元就君は歌を詠むのだったか。 毛利家を豊臣に引き入れたあかつきには、歌会にでも誘ってみようと思った。 彼が受けるかどうかは別として。 「賢人・歌詠みの会、なんてどうかな…」 あからさまな元就の渋面が思い浮かんで、思わず微笑したとき。 一文字三星の軍旗を手挟んだ早馬が、半兵衛の一行とすれ違った。騎手は軍装、それも急使のようだ。 「始まった」 ぽつりと呟いた言葉に近習が振り向いたが、半兵衛は黙って首を振る。 「さ、帰ろう。……なるべく急いで、ね」 ここはやっぱり敵地だから、と言えば、供回りも緊張して馬を駆けさせる。 別の意味で帰還を急ぐ半兵衛は、しかし、悪戯が成功したような、どこか愉快な気分だった。 (――さて、元就君はどう出るかな。) どの道、織田、明智と、領内をかき回された豊臣軍に、中国を攻めるのは厳しい。 旧織田領の半数は豊臣の支配下となったが、それは守るべき領土が一気に拡大したということだ。武田、上杉、徳川、伊達……南下西進を目指す勢力が数多ある中、今後はそれらを一挙に警戒しなくてはならない。 手を出さぬ限りは攻めぬ大国、しかも詭計智将の領土に拘るべきではない。 しかし、来るべき決着のため、何かしら牽制の手段は講じておきたい。 そこへ、あの狂い咲きのような男が現われたのだ。 毛利元就が臥せったからといって軽々しく蜂起するような者は、所詮、近いうちに殲滅されるだろう。 しかし、擾乱の種ぐらいにはなる。 (兵は捨て駒、か…) 哀れなほど強固な忠誠心の持ち主よりも、絶対の冷徹さで発せられる言葉に親しむのは、稀有な智将同士、当然のことだった。 |