異臭を放ち、焼け落ちた村。 周辺の田圃もすべて、焦土と化している。 道とおぼしきあたりには、おそらく人であっただろう、炭化した死体が虚空をつかみ、折り重なり、連なり、転がっていた。 「ひでえ……」 いつきは唇を噛んだ。 「稲刈りが済んだて、尼子の軍勢を焼き討ちしたらしいだ…」 総頭の吾作が、告げた。 「いつきちゃん、行くだか…?」 気遣わしげな仲間の言葉に、いつきは強くうなづいた。 「戦のために、平気で村さ焼くおさむらいだ。許しちゃなんねえ…!」 意志に満ちた強い眼差しが、業火の熱くすぶる焼け跡に向けられた。 「おやおや…怖いことですね…」 ぎゃっ、と悲鳴が上がった。 「いつきちゃん!」 黒く焼け落ちた廃墟に、黒い塊のような一団が凝り固まっていた。 微動だにしない。 深くうつむき、ただ沈黙している。 「さ、侍だ…!」 一揆衆の悲鳴が曇天に響いたきり、吸い込まれた。 侍――そう呼ばれる塊の前に立つ者は、では何者であろう。 「ここで逝き遭うのも、何かの因縁でしょうか」 全身を妖気にも似た気配が覆っている。 吐き気を催すような、おぞましい、その気配。いつ首を断ち斬られるかわからない、禍々しい恐怖に全身を刺し苛まれるようだ。 地獄から這いずり出た幽鬼が、そこにいた。 「みんな死んでしまいました…ふふ……」 落ち着きなく動く両手に、鎌と思しき不気味な刃物が握られていた。 それが何時、凶行に奔るのか。すでに一揆衆は――いつきを除けば、逃げ腰だった。 ゆらゆらと揺れる白い髪の間から、鬼火のような目が笑っている。 「手慰みには軍勢が少なすぎます…」 幽鬼の後ろに控えた軍団が、びくりと体を震わせたのが、離れたいつきたちにも伝わった。 “手慰みに自軍の兵士を切り刻むには、人数が減りすぎてしまった”という意味だとは、無論、いつきたちには解らない。 「代わりに、あなたたちが癒して下さい」 ぱっくりと唇が開いた。微笑みと呼ぶには、あまりにおぞましすぎる。 「虫をいたぶるのは、手軽さが美徳です。放っておけば、いくらでも増える…」 一揆衆が悲鳴を上げて後じさった。 幽鬼が笑いながら、近づいてくる。 |