「毛利軍…よい悲鳴が聞けそうですね…」 明智光秀は、そう言って笑った。 山麓の毛利軍が進軍を再開し、一の山門を突破したとの知らせがもたらされたばかりだ。 どうやら、毛利元就自身が先頭に立って、軍を指揮しているらしい。 味方もろとも敵の首を刎ね、冷たい表情で山道を疾駆する、あの端整な姿が目に浮かぶようだ。 「ふふ…怖い御方だ…」 満足げに微笑みながら、光秀は巨大な鎌を掴んだ。 「さあ、山頂を頂くとしましょう」 圧倒的な恐怖に従う軍団が、動き始めた。 今更、明智光秀の軍に道は残されていない。 狂気と理智を翻弄する主君に、地獄までつき従うことだけが、彼らの選ぶべき道であった。 誰も、もう戻れない。 「お館様、明智軍本隊が進軍を開始したとのことにございます」 「就英、そなたらは二の山門を守備し、後続する軍の進行を助けよ」 「御意」 今頃、小早川隆景率いる後発部隊が山麓を応急的に整備しているはずだ。 毛利軍本隊も、しばらくすれば動くことができる。 「先発部隊は、迅速に山頂を制圧せよ。後詰は山門を防衛、進路の確保に全力を注げ」 「はっ」 「元方、後続部隊に、進軍速度を上げて追いつくよう命じよ」 「かしこまりました」 不気味なほど冴えた月の下、日輪の申し子は純白の采配を振るった。 「今が機である、攻め手緩めまいぞ」 馬腹を蹴り、山腹より一陣、白馬が駆け出した。 |