郡山城に、ひとつの大きな箱が届けられた。 五尺はあろうかという大きさの桐箱だが、平たい。 開けてみれば、見事な輪刀が収められていた。 紫がかった黒い鋼には気の遠くなるような緻密さで唐草や浮線綾の紋様が施され、流水のように優美な曲線と彫りの鍔は黄金造だった。 なにより美しいのは、華麗な刀身にきらめく刃だ。直刃に近いが、大きく研ぎだされた刃の幅は明らかに実用的、そして殺傷力が強くなるように作られている。 「誰が送り届けたのか」 聞けば、村上家より届けられたのだという。 「ただ、村上殿は、出入りの商人より預かったと申されました。堺の港で急ぎの荷として言付かったとか」 元就が改めて刀を眺めたとき、刃の峰近く、何か彫られているのが見えた。 金で象嵌された、それは文字だった。 「不振な荷でございますれば、急ぎ調べを――」 「それには及ばぬ」 「は…」 珍しい主君の言葉に、侍臣は内心、首をかしげた。 「贈り主は、わかっておる」 鋭い刀身に、篆刻で“死壊”と切られていた。 了 |