夏のある日、いつものように元親がやって来た。 常の葛籠の山は無く、代わりに、袱紗に包んだ桐箱を持参している。 「悪い、今回の土産はこれだけだ」 「別に期待などしておらぬ」 「冷てぇこと言うなよ、これのために大枚叩いたんだからよ」 軽口を叩き合いながら元親が取り出したのは、一尺ほどの玉の壷であった。 とろりと白い、なめらかな色合いの玉は、柔らかな潤いを含みながらも、涼やかな硬さを持つ。 そこが、元就を惹きつけた。 驚くべきは、それが一つの玉からできているらしいことだった。 だとすれば、毎度の山ほどの舶載品がたったひとつの玉器に収まるのも頷けた。 「ほう、これは…」 感嘆の呟きとともに唇を噤んだ。 彼とて、美しいものを愛でる心はある。 あるいは、人よりも洗練され、優れているとさえ言えた。 存在それ自体が玉器のような元就に、そのような人らしい感性が宿る様子を見るのは、元親には嬉しい一時だった。 ひとしきり鑑賞していたが、やがて満足げに元親へと向き直った。 「見事な品よ」 率直な称賛に、元親は大きく頷く。 「だろ?…けどよ、こいつはもっと凄えもんさ」 何だと問えば、白い歯を見せて 「海だ」 ニカッ、と笑う。 突拍子もない言動にはいい加減、慣れているつもりであったが、さすがにあきれた。 「阿呆か、貴様…」 いささか軽蔑を交えた反応も、元親には慣れたもの。 「まあまあ、いいからよ、水を持ってきてくんな」 水など如何にするのか、と言いたいのを、ぐっとこらえて用意させた。 どうせ言い出したらやめないし、元就が渋ったところで、自分で用意くらい―他所の城を勝手にうろつきまわって―やってのけるからだ。 |