10/11の日記

02:10
罪と罰 @     →ど暗い死ネタです注
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「分かっているな、テマリ…」


私は、里の上役達に頷くと
部屋を後にした

既に、日は沈み辺りは暗い

寒々しい空気に
蝋燭の灯りだけが点々と灯る長い廊下を歩く


風影室の前に差し掛かると


「テマリ、入れ」


中から声がかかる


小さく舌打ちし
気配を消して歩いても気付く
勘の鋭い弟に、いらぬ詮索をされぬよう
最新の注意を謀りドアを開けた


最近では、里長としての重厚感も増し
頼もしい限りの我愛羅
里の皆から尊敬され、必要とされる存在

この里の風影は、
我愛羅でないと…


「まだ仕事か?大変だな、我愛羅は」


私の微笑みとは、逆に
鋭い視線が突き刺さる


「…上役達に、何か言われたのか?」


ゆっくりとした口調とは裏腹な
キツい表情で尋ねてくる


さすが… 我愛羅…


“知られてはイケナイ
我愛羅には…”


表情に出そうになるのを、立て直す


「ただの、夫への伝言だ」


私の夫は、里の中枢を任う上忍で、よく上役達からの 暗号解析依頼や戦術立案などの依頼があり
上からも、一目置かれている存在だ


「…そうか、ならいいが」


まだ少し訝しげな表情を見せるも
また書類に目をやり、仕事をし始める


書類の束の隣に、同様に高く積まれた写真らしき用紙に目がいく


そう言えば、数日前
上役達に再三念をおされ
我愛羅が、渋々受け取っていた見合い写真の束を思い出した


「また、ずいぶんと…」


数枚を広げて見る


「何度も断っているのだが…」


書き物をしながらも、先程とは変わり
決まり悪そうな弟に


「風影が、いつまでも1人身って訳にもいかないからな…
心に決めているヤツでも居るのか?」


少し茶化すと、照れ臭そうに


「そんなヤツはいない
…俺には、特定の人間を愛する と言う感情が解らない」


徐々に表情が曇る

手元の、一点を見つめ


「傍に居ても、愛してやれないのは… 酷く残酷な事だ
そんな思いは… 誰にもさせたく無い…」


その哀しげな横顔に
小さな頃から里の為に
と振り回され 痛みを伴ってきた我愛羅の、本心が見え 胸を締め付けた


「それに…」


ずっと書類に落とされていた目線が、こちらに向く


「結婚するのなら… 偽りのない気持ちで、向き合えるやつとしたい…」


力の籠もった目線、何が言いたいのか… 分かっている


思わず視線を反らした


「もう帰るよ…
我愛羅も無理するんじゃナイよ」


そう早口で言うと、視線を合わせず
風影室を後にする




建物の外に出ると、初夏の肌寒さに 身を縮めた

“上着を持ってくれば良かった…”

後悔したが
また、風影室の前を通り過ぎる訳にもいかず
そのまま、ひんやりとした
夜の闇を走った




家にたどり着くと、明かりが灯っており
中からいい匂いがしてくる


扉を開けるよりいち早く


「おかえり」


と抱きしめられた


広い胸、安心できるその場所は
少しだけ居心地悪く
毎回、私の表情を曇らせる


「どうした?」 


優しく頭を撫でてくれる手に、罪悪感を感じながら


「夕飯作ってくれたんだな、ありがとう」


抱きしめられた腕の中を すり抜けた


背後で吐かれた小さな溜息


彼が今、どんな表情をしているのか


振り返らなくても分かる…


申し訳なさで一杯になる


作られた夕食を 綺麗に並べ


「食べよう!」


笑顔で声をかけると、


「そうだな!」


彼も笑顔で返してきた


結婚して3年、子供はいない

この人は…
凄く大切な人だ

好きだと言う気持ちも、
愛情も感じている

優しい人で安心もできる


“3年も経つのに…”


なのに、どうしても気持ちが心に付いていけず
それ以上の感情が、停止しているような
嫌な感覚を、ずっと抱えていた




つぎの日、私は護衛2人と目的地へ向かう


最近力をつけてきて、我々に宣戦布告をしてきている
ある国について、
同盟国の木ノ葉の参謀と対策を錬る為
砂と木ノ葉の中間地点である、宿場町で落ち合う手筈になっていた 



木ノ葉の参謀…



奈良シカマル



3年振りに聞いたその名前に…
胸の奥が痛む


木ノ葉の参謀にまで成った男…


私とあいつが初めて会った時、あいつはまだ下忍だったが
上忍になるまで、あっというまで
頭のキレるあいつの事は、皆が認める所だった
火影の信頼も厚く、木ノ葉一の参謀になる事は、容易に想像できた



3年前、お互いの立場も里も捨てられず 何度も話し合い別れた私達


その後すぐ、私を好きだと言ってくれた今の夫と
結婚をした


シカマルは、風の噂では 結婚して子供もいると聞いた


息苦しい


自分にできるのか?


握り締めていた手に力を込める


しっかりしなければ
我愛羅を守れるのは、私しかいないのだから…




夕方、落ち合う手筈の宿に着くと
伝言を受け取る


急な案件があり、木ノ葉側の到着が遅れるとの事


ホッと胸を撫で下ろす


あいつと顔を合わせる時間が、延びた事に
緊張の糸がとぎれ


「少し、1人になりたい
そから辺を散策してくる」


護衛についてきた2人に告げると


「テマリ様… 解っておいでですね」


1人が神妙な面持ちで、小声で耳打ちしてくる


私は、そいつを一睨みすると
踵を返し、宿の外に出た


先ほどまで、夕焼けの朱が キレイに見えていたが
今は、藍色の空に もう星が輝いていた


少し歩いて、川に架かる橋の中央で足を留めた


護衛とは、名ばかりの
私が任務を遂行する事を見届ける役のあの2人


イヤ…もっと言えば
私が、しくじらないように… 見張る役


ため息と共に、川面を見下げる


すると、小さな灯りがふわふわと飛んでは消え 
また他方向から、飛んでは消え と繰り返すさまが目に映る


「…ホタルか?」


前に、木ノ葉の里で
一度だけ見た事がある


…あいつが見せに連れて行ってくれたんだ

砂では、見れないだろうから と…


もっと近くで見たくて、橋から身を乗り出していると
突然腕を引かれる


「なっ!」


「あぶねぇだろっ!そこ手摺り腐ってんぞ」


油断していた不意な出来事に、状況が整理できるまで少し時間がかかった


聞き覚えのある声
懐かしい腕の中…


3年前は、頭一つ分だけ私より大きかった身長が
今は、肩の位置からして違い
もっと高い位置にあるのが解る

闇夜で顔は、見えないが
忍服ごしでも解る
逞しくなった胸の
緑のベストを慌てて押し退ける


「はっ、離せ!」


飛び退くと


「変わんねぇなー
そういうとこ」


笑い声が聞こえた


このあいつ独特の、喉を鳴らしてククッと笑う声さえも懐かしく

胸の奥底から込み上げてくる気持ちを、悟られないよう

思わず駆け出していた




暫くし、宿に戻ると


「木ノ葉の方々、お見えになってますよ」


宿の者から声を掛けられる


打合せ場所の部屋に行くと、私以外の皆が揃っており

あいつも、何食わぬ顔で座っていた


私も冷静に席に着く


さっそく対策会議が始まる



一通り、話し終わると


各自の居室に戻ろうと腰を上げる木ノ葉側に
付き人2人が、酒をすすめる


任務中だと断られながらも、強引に酒を注いでいく

砂の国独自の、強力な催眠剤が入る酒を…




夜もふけ 静まり返った部屋に、木ノ葉の参謀と2人だけ


もともとアルコールに強く無いこいつは、酒への細工も効いて 
ぐっすりと寝込んでいた


月明かりに浮かぶシカマルの顔


昔と変わりは、無いが
幾分大人っぽくなり
父親に益々似てきたように感じる


そっと頬に手を添える


暖かい…


目元から鼻先、口元までを ゆっくりとなぞり


最後に唇に触れる


暫く触れていた唇から手を離すと、意を決し

胸元に忍ばせてあった短刀を握り締め

一気にシカマルの喉元へ突き付ける


力を入れれば、このまま任務が遂行できる


我愛羅の為、里の為だ!
迷うなっ!


こいつの、

木ノ葉一の参謀暗殺が

絶対条件なのだから…


何度も力を入れようとするが、手が震える…


何度目かの意を決した時 

気づく…


「…起きてるんだろ… 何故除けない…」


「…おまえになら、殺されてもいいか… と思ってな…」


目を閉じたまま答えるシカマルに


「…じゃあ、そうさせて貰おう…」


喉元の手に力を込める


薄らと血が滲むシカマルの首筋


ガタガタと手が震える
おおよそ忍びらしくない
迷いと手の震え

その私の手の上にシカマルの手が重なる


「…出来ないのか?…手伝うぜっ」


シカマルの力が加わり、一層血の滲む首に


私は、シカマルの手を払い短刀を投げ捨てた


肩で息をしながら、思わず叫ぶ


「なんで!!」


胸に拳を叩きつける


「…言ったろ…あんたになら、殺されてもいいって…」


「おまえは…木ノ葉で重要な参謀だ
待ってる人だっている…
なのに…何故…」


何度も胸に叩きつけた拳が、シカマルの手に ぎゅっと包み込まれる


「…全部…解ってやってんだろ?
そんだけ重たい何かが…あんだろ?
…殺れよ…」


自分の首元を曝け出す


「…できない…」


シカマルは、投げ捨てた短刀を拾い上げると
私の前に膝まづき


「…早くやれ! 
今なら、同行してきたあいつらも 気づかねぇ
早くっ」


私に短刀を握らせると、自分の首元まで持っていった


「…やめろ…

…やめろ…

できない…

できないっ!!」


大声で叫ぶ口をシカマルの唇が塞ぐ


頭の中が、ぐちゃぐちゃだ…


全うしなければならない任務 
出来ない自分
里の事 我愛羅の事
こいつのこと
木ノ葉の事


なにもかもが入り交じり、出口のナイ迷路に
思考が考える事を拒否するように 
遮断されていく


シカマルの薄い唇の感触ダケが、今の自分を確認出来る
唯一の存在だった


ゆっくりと離れる唇


ギュッと抱きしめられ


長かった3年など、
あっけなくすっ飛ばし

この、今でも変わらず心地よい胸に縋っていられたら



どんなに楽か…



「俺を殺らないと、おまえが困んだろ…?」


「…我愛羅と…里が…」


込み上げる涙が堪えきれず、子供のように泣く私を


あいつは、昔と変わらず優しく抱きしめた


胸が痛い 


こいつは… 他の女(ひと)のもの


私も… 他の男(ひと)の…



「やっぱ… 俺達… 逢っちゃいけなかったな…」


私の頭を撫でる、昔からのこいつの仕草


「…俺… 逢ったら…
おまえに触れねぇ自信がなかった…
きっと… 触れたくなって
触れたら… 離せなくて…
もう、いろんな事…
どうでもよくなっちまいそうだか…ら…」


シカマルに強く抱きしめられるのと同時に
背後からクナイが飛んでくる


一瞬早く、私を庇って背中でクナイを受けたシカマル

私を、抱きしめていた腕の力が 徐々に抜けていく


「…なんで私なんかを!…イヤだ!…イヤだ!!」

崩れ落ちるシカマルの身体を、支える


私の頬に伸ばされる手に、自分の手を添える



「…おまえが…グズグズ…してる…からだ…
おまえの…手に…かかりた…かっ…た…」


頬の涙を拭っていた、シカマルの手が
力なく落ちてゆく


その手を、必死に掴もうとしたが 


シカマルの手は、私の手をすり抜け

床に落ちてしまった





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